四話


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――あら、ハクナさん。今日も、ご夫婦で登校ですか?
――やだ、ミミィさん。ご夫婦なんて、そんな。
――羨ましいですわねぇ。私は婚約者などいませんが、その婚約者とそこまで仲良く出来るなんて、それはそれで微笑ましいですわ。
――ふふ、ミミィさん。実は私たちも、最初からここまでではなかったんですのよ?
――そうだったのですか? では、どうして?
――くす。それでは、ミミィさんにだけお教えますわ。殿方というものは、一度の告白で受けてしまえば、「この女は自分のものだ」という認識が強くなるんですのよ。
――そうなのですか?
――ええ。ですから、一度付き合って、手ひどく振るなり、最初は告白を蹴るなりしてしまうのです。そうすれば「そんなに簡単にお前のものになんかならない」という意思表示が出来ますからね。
――ですが、そんなことをしては、脈なしだと思われてしまうのではなくて?
――ですから、脈ありと思える行動を続けるのですよ。振る前も、振った後も。そうすれば、殿方ももう一度、告白してくださることでしょう。
――なるほど。さすがはハクナさんでございますね。私も、意中の男性が現れたら、是非ともそのようにしてみますわ。
――ふふ。ミミィさんに好いてもらえる殿方も、幸せですわね。最初はお辛いでしょうけど、すぐに幸せの形を知ることになるでしょう。


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 朝――私、ミミィはふと、昔の夢を見て目を覚ましました。どうやら昨日、トウヤさんに告白されたことが、きっかけとなった模様です。

「一度は捨て、次に応じる、ですか……」

 確かに、そうすれば男性側のほうも、自分を捨てにくくなることでしょう。外面や貴族という一面だけで寄ってくる男性も、同時に撃退することができます。

「トウヤさん、ですか」

 彼が、貴族の娘という外面を気にしているだけの男性だったら、願い下げになってしまいますが。そうでなければ、平民という身分で初めて、共に歩んでも良いと思えた、冒険者の男性。それが、トウヤさんでした。

 実力、性格、共に申し分在りません。顔は、もう少し普段から引き締めていただきたい所ですが、お付き合いすることになったら、じっくりと訂正していけばいいだけの話です。

「…………」

 横では、セナさんが寝ています。難しい顔をして帰ってきましたが、トウヤさんに何かをしたのでしょうか。

 彼女はどうも、トウヤさんに尊敬の念を抱いているようです。冒険者としての先輩のようですから構いませんが、横恋慕をされても厄介です。

 もっとも、告白をされた時点で気持ちは私のほうに靡いてますから、無駄なのでしょうけど。ついでに、容姿の面でも、私のほうが完全に勝っていることを自覚しています。さらに言えば、前の町でお酒に酔ったトウヤさんは、何故かゴロツキと意気投合をしてしまいまして。下卑た話をしていました。耳に毒だとは思ったのですが、彼のタイプは包容力のある年上の女性で、黒髪、巨乳がいいとのこと。まさに、容姿的にはぴったりと当てはまっています。一方セナさんは、短髪で、胸……は、可哀想なので言いませんが、ここまで差がある以上、絶対に私には勝てません。特に年齢は、絶対にひっくり返せませんからね。

 ふふ。尊敬している女性の一人や二人くらいは、放っておきましょう。そのくらいで動揺していては、この先が思いやられてしまいますからね。

 では、トウヤさん。ここからが最終試験です。この私を、見事墜としてごらんなさいな。


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「う〜っ……」

 思いっきり伸びをすると、固まっていた関節がぼきぼきとほぐれる感じがする。少しの間ぼけーっとして、俺は思わず呟いた。

「やべえ、めっちゃよく寝たわ……」

 失恋した日の夜だというのに、猛烈によく寝てしまった。ばりばりと頭をかきむしりながら起き上がると、寝癖が凄いことになっているのが分かる。水汲み場まで行って水をもらい、頭に撫で付けて寝癖を直す。

 ゴーズは今朝もいなかった。また随分と早起きなことだ。俺は自分の部屋に戻り、冒険用具をチェックする。

 依頼においては必要道具が支給されることもあるが、大抵は持ち込みの道具でどうにかする。地下水道での魔物退治だとか言っていたから、松明ぐらいは支給されることだろうが、即効性の傷薬や砥石、金剛砂なんかはいくらあっても困らない。あ、金剛砂と水を少しずつ混ぜ合わせて砥石の上で研ぐことによって、武器って研磨するんだぜ。

「ま、こんだけありゃ大丈夫だよな」

 昨日の内に準備は終えてあるものの、考え事をしていたからか、どこかで手抜かりがあるかもしれない。一応念のためもう一度チェックすると、ゴーズが部屋に帰ってくる。

「よう、おはよう、ゴーズ。今日もまた精が出るな」
「ああ。今日は体力を消耗するわけにも行かないから、精々準備体操ぐらいだがな」

 俺とゴーズの起床時間は、基本的にどっこいどっこいだ。俺が早く起きることもあるし、ゴーズが早く起きることもある。大して時間は変わらないらしく、俺が起きて十分もしないうちにゴーズは起きるし、逆もまたそうだとか。どうやら今日は、ゴーズのほうが早かったらしい。

「準備体操って、どれくらいだよ。いつも通りの素振り百本と瞑想十分の三本セットか?」
「今回は軽く一回だけだ。お前のほうは、今日はもう大丈夫なのか?」
「ああ。昨日はまあアレだったけど、いつまでも引きずってるわけにも行かないからな」
「そうか。拙者にはよく分からんが、その顔を見ればいつも通りになったようだな」
「まーな。お前は準備できてんのか?」
「抜かりない。無駄死にするわけにも行かないからな」

 んな壮大な決意をしている割には行く場所は単なる地下水道なのだが、確かに無駄死には避けたい所だ。ウエストポーチに必要物資を詰め込んで、最終チェック。よし、大丈夫。

 そのまま、今度は部屋で瞑想を始めたゴーズを無視して着替えをし、寝巻きを畳んで背嚢にしまう。背嚢には一般的な用具を入れるが、ウエストポーチには今生き延びるための最低限の道具が入る。戦闘時には背嚢を外し、そのまま戦いを始めるのが基本。重い荷物を背負っていては、戦いには支障が出てしまう。

「朝食の準備が出来ましたー」
「おっ」

 タイミングよく、宿屋の係が呼びに来た。部屋を出ると、ミミィさんとセナちゃんも出てきたところ。

「おはよう、二人とも」

 いつもなら挨拶をするのだが、片や昨日告白して振られてしまい、片や昨日告白されてカミングアウトも食らってしまいで、どう言ったものかとしばし悩む。とはいえ、ミミィさんには告白の後、忘れてくれと頼んでおいたし、セナちゃんの方には気にしないよと言っておいたので(実際に気にしていないのだが)、そのまま素直に挨拶をする。

「あ……」
「……おはようございます、トウヤさん」
「……おはよう、トウヤ君」
「ああ、おはよう」

 先に声を上げたのは、セナちゃんの方だった。が、呟きの後に、ミミィさんが挨拶を返す。少し後に、本当に俺が気にしていないことを汲み取ったのか、セナちゃんは顔に笑みを浮かべて返してくれた。

 今日も今日とて、朝食のメニューはパンとスープ。ミミィさんは紅茶をつけたが、今日の俺にコーヒーをつけている余裕はない。お財布の中身はすっからかんだ、今日の仕事が片付かない限り、コーヒー一杯も頼めない。

「今日は、コーヒー飲まないの?」
「……分かってて聞いてんのか、セナちゃんよ?」

 なんか知らんが嬉しそうに聞いてくるセナちゃんに、微妙な顔で俺は返す。セナちゃんはごめんねと小さく笑うと、手を挙げて宿屋の人を呼んだ。

「すみません。えっと、ホットミルクと、この人にコーヒーをもらえますか?」
「へっ?」

 思わず聞き返した俺だったが、宿屋の人はそのまま注文をとって帰っていく。呆然とセナちゃんを見つめる俺の前に、セナちゃんはくすっと笑って返した。

「昨日のお礼!」
「ばっ、ばかっ、礼を言うのは俺のほうだって……!」
「じゃあ、今までの冒険準備の授業料」
「……くーっ……」

 セナちゃんの優しさが、軽く染みた。

 当然ながら、その日のコーヒーがめっちゃ美味かったのは言うまでもない。

 

 

「うおおおおおおお、やってやるぜーっ!!」
「女子にコーヒー一杯奢られただけでそこまでターボがかかる貴様が羨ましいわ……」

 なんとでも言いやがれ。コーヒー大好きなこの俺の、的確なツボを抑えたあの行動。コーヒーがないと何となくスイッチが入らない俺にとって、あれはまさに天恵ともいえる行動だった。

 ハイテンションな俺と突っ込みを入れるゴーズの前で、女性陣は別々の顔を向けている。一人は笑顔で、もう一人は難しい顔で。笑顔なのはセナちゃんで、難しい顔をしているのはミミィさんだ。

 とはいえ、いつまでも浮かれているわけにも行かないので、俺は最終チェックを取る。

「じゃあ、全員準備はいいな?」

 セナちゃんが頷き、ゴーズが頷き、少し遅れてミミィさんも頷く。もちろん俺も出来ているので、んじゃ行くかと号令を下した。

 冒険者パーティ“ソルティーヤ”は、一応俺がリーダーだ。元々俺とゴーズの二人旅だったのだが、そこへ女性二人が加わってきたという形。同じ町でこそあったものの、セナちゃんとミミィさんには互いに面識がなかったようで、そうなると必然的に俺かゴーズがリーダーを務めることになる。

 が、ゴーズは最年長ではあるのだが、女性に関してはコレである。結果として、俺がリーダーを務めねばならなくなってしまった。ゴーズ曰く「協調性を取るのは苦手なのだ」そうで。

 まあ別にリーダーといっても、メンバーの代表みたいなものだ。取り立てて大仕事があるわけでもなし、俺も気楽にやっていた。

 振り返ると、二人は相変わらず別々の顔。そういえばと、俺はセナちゃんを呼び寄せる。やってきたセナちゃんに、俺は耳元で囁いた。

「セナちゃん」
「ん?」
「なるべく早く決着つけて、なるべく早く返事するから。だからそれまで、待っててくれな」
「……ん」

 顔をほころばせて、セナちゃんは嬉しそうに頷いてくれた。

 ――ふと。ミミィさんの顔に、険が増したような気がした。


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 ……どういうことですか?

 先ほどからのトウヤさんの行動に、私は不信感を拭えませんでした。

 昨日、彼を振った私に対して、トウヤさんは忘れてくれと言いました。その日の晩は、さすがにそのショックが抜けていないようでしたが、今朝見てみると、どうしてか立ち直っていたのです。もちろん、今日はお仕事がありますし、トウヤさんは切り替えが早かったということもありますが……納得行かないのが、セナさんです。

 朝食の時はトウヤさんに尻尾を振るかのようにコーヒーをつけてあげ、今も何故か彼の隣に立っています。昨日までは、そのような仕草はなかったのに……まさか、私のトウヤさんに横恋慕を?

 ……冗談ではありません。彼は私と共に歩むべき人です。貴女なんかではないでしょう。

 それに、トウヤさんもトウヤさんです。なぜ、そのような女に寄るのですか。まさか、女なら誰でも良かったと? 私に振られたから、ただの一度で諦めて、その女にアプローチをかけるのだと?

 ……いえ、それはありませんか。いくら切り替えが早かったとしても、さすがにそこまで無恥な男性ではないはずです。となると、あの女が昨日、トウヤさんの心に付け込んだに違いありません。

 ――あまり、舐めた真似をしないほうがいいですよ。

 眼光を飛ばすと、セナはびくりと体を震わせ、こちらのほうを振り向きました。私は即座に、笑顔を作って返します。

 清く、正しく、美しく。常に余裕を絶やさないのが、貴族と大人の嗜みというものですからね。


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「うーん、こんなにじめじめして薄暗かったりすると、魔物の一匹でも出そうだな」
「実際に出るから依頼になっているんだろう。下らないことを言うんじゃない」
「お前は一々マジに解釈しすぎだっつの……」

 支給品の松明に火打石で点火して、あたりを照らしながら歩いていく。一応、依頼の文章は昨日の夕食時に読ませてもらった。ミミィさんが眉を顰めていたが、まあ仕方が無いといえるだろう。

 相手は、この地下水道で大繁殖したネズミの魔物の退治である。体長は大体六十センチほどで、大きなものになると一メートルを越えるという。ネズミが苦手でなかったとしても、あれだけデカいと話は別だ。動きもやたらと素早い上に体格も中々どっしりしていて、ついでに群れを作られていることもあるため、新米冒険者であれば迂闊に手を出せない存在だった。

「……ん?」

 違和感を覚えて、歩みを止める。ゴーズもほとんど同時に気付いたようで、既に刀に手をかけている。セナちゃんやミミィさんはまだ気付いていないようだが、これは単純に経験の差だろう。

 程なくして、キイキイという耳障りな音と共に、ネズミの群れが現れる。群れの数は……ざっと、五十。外敵の侵入を察知したのか、一塊に纏まって戦闘態勢に入っていた。

「恨みはないが、倒させてもらうぞ」
「よっしゃ、ほんじゃま、行きますか!」

 重いゴーズの声と軽い俺の声が木霊して、次の瞬間、ネズミ共との戦闘に突入する。走ってくるネズミ共の鼻っ柱をへし折るように、セナちゃんの魔法が炸裂した。

「フレイムノア!」

 マジックグローブから放たれた火炎の波が、俺とゴーズの間をすり抜けて、ネズミ共を飲み込んだ。同時に俺は氷の魔法を起動して、自分の周囲に冷気を集める。

「これでも食らえ!」

 上から襲い掛かるネズミ共に、氷を纏った左ジャブの連打を叩き込む。六匹のネズミはほとんど同時に腹を撃ち抜かれ、内臓を破壊されて、死への直滑降を強制された。続けざまに逆側の手を前方に突き出し、その手から放たれた冷凍光線がネズミの群れを吹き飛ばす。だが、攻撃直後で隙の出来たこっちの体を食いちぎらんと、横から別のネズミが殺到してきた。

「げっ……」

 体勢を崩しながらも、どうにか回避しようとした瞬間。短い気合の声と共に、ゴーズが白刃を一閃させた。信じられない切れ味を持つ鋼の刃は、ネズミの群れを綺麗に輪切りにして叩き斬り、次々とあの世へ送っていく。

「防御をおろそかにするな、世話の焼ける」
「悪い悪い、礼言っとくわ」
「はっ。そんなものいるか」

 言い捨てられて、俺はゴーズと二人並んでネズミ共と対峙する。その後ろで、セナちゃんの高い声がした。俺らの頭を飛び越えるように、氷の刃が飛来する。数匹のネズミを貫いて、ネズミの悲鳴と俺らの気合の声と共に、戦闘再開。

 俺が凍らせる。ゴーズが斬る。ネズミが飛び掛る。ゴーズが避ける。俺が蹴る。時たま、後ろからセナちゃんの援護の魔法が飛来する。何匹かのネズミは身軽に壁面を駆け抜けて、横をすり抜けて後ろの二人を食いちぎろうとするものの、そうは問屋が卸さない。よしんば、すり抜けていったとしても――

「護身術くらいは、できるのですよ!」

 ミミィさんの杖が、力任せにネズミを殴りつけた。隙は大きいが、あれだけでかいと当たりやすい。多少なりともミミィさんは戦えるし、セナちゃんの方は俺とゴーズがある程度だが仕込んである。少しは持ちこたえられるだろう。

「たぁいえ、少しは危ないからな。ゴーズ、しばらく前線任せていいか?」
「しばらくどころか、この程度の群れなど一人で倒せる」
「だろーな」

 ゴーズの戦闘能力は、悔しいことに俺より高い。その実力に前線を任せて、俺は後ろへと抜けた魔物を殲滅にかかった。戦況は五分五分。俺とゴーズのコンビと違って、セナちゃんとミミィさんのコンビではあまり連携も取りにくいのだろう。技術ではミミィさんの方が上だが、数は向こうのほうが多い。といっても、四、五体なのだが。

 しかも、セナちゃんに近接戦の心得はない。もっとも、最初の鍛錬の後は常に捨て身で戦っているので、極限状態が大半だからということもあってか、実力はどんどん上がって……は、いるのだが、いつ死にやしないかと不安で仕方ない。

 そういえば、そういうことだったのか。やたら自分の命を粗末にするような戦い方をすると思ったていたが……彼女は、自分の命に価値なんか見出していなかったのだ。

 だが、それは間違いと言わざるを得ない。少なくとも俺は、彼女に対して仲間の情は抱いている。昨日の告白をさておくとしても、俺の大切な後輩だ。そんな捨て身の戦いなんて、絶対にしてほしくない。

「つぁらあぁ!」

 戦場に、割って入っていく。今まさにミミィさんに襲い掛かろうとしたネズミを蹴飛ばし、返す刀で別のネズミを打ち砕く。

「二人とも、無事だな?」
「トウヤさん、助かりました。この女が、全く役に立たないものでして」
「うっさいな! こっちは魔法型なんだから、しょうがないだろ!」
「戦闘中に棘の立つ言い方をするんじゃない。……でぇい!」

 たかだか五匹のネズミなど、俺にとってはただの雑魚だ。瞬く間に残った三匹を黄泉送りにすると、前からゴーズの声が響いた。

「トウヤ、セナ! チャンスだ、纏めて焼き払え!」
「!!」

 見ると、ネズミ共の動きが止まっていた。どんなに突撃を繰り返しても果敢に弾き返す異国の侍に、一旦体勢を立て直そうとしたのだろう。

 だが、その隙を見逃すほど、こっちは甘くない。

「ゴーズさん、下がって!」

 先ほど役に立たないと言われたセナちゃんが、名誉挽回とばかりに魔力を高める。何故だろう、いつもよりも少し、その魔力が強い気がした。

 ゴーズが伏せるのに合わせ、セナちゃんは魔力を解き放つ。

「――エクレール・バル!!」

 重ねて突き出された両手から、小さな弾が発射され……敵の中心部で、爆裂した。黄色い光が弾け飛び、乱舞する光が地下水道を照らす。

「うぉあ!!」

 思わず、手を前にかざして光を遮る。セナちゃんが解き放った魔法は、間違いなく今までの中で最強クラスの技だった。こりゃ、俺の吹雪はいらないな……その威力を直感で悟り、俺は魔力を再び戻す。あまり無駄遣いはしたくない。

 駆け抜けた稲妻が消えたとき、辺りには何十ともいえるネズミの死骸が転がっていた。ほとんどを雷に焼き焦がされ、ところどころ斬られたり凍ったりした奴もある。生きているネズミは爆音で驚いたのか、あるものは立ち呆けになり、またあるものは逃げ散っていった。

「腕を上げたようだな、セナ」
「えっへへー」

 ゴーズが珍しく賞賛の声を送り、セナちゃんは照れ隠し気味に笑う。その後、何故かこっちのほうを見てきたので、笑って頷き返してやった。今まで使っていた魔法よりも、一回り強力な技であることは素人目にも分かったからだ。

「ナイスだぜ、セナちゃん。後でゴーズがチョコレートパフェを奢ってくれるってよ」
「笑うのはまだ早いぞ。今の内に浮き足立っているネズミ共を殲滅する」
「ボケたんだから、せめて突っ込んでくれませんかねえ……」

 とはいえ、ゴーズの言うことは正しいわけで。俺はもうしばらく、ゴーズと共に地下水道で暴れ回ることになるのだった。

 

 

 
 
 
 
 
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