第八話 

事件勃発


朝。

活気に満ち溢れ、人は一日の始まりを実感する。

多くの人は、親しい人と朝の挨拶を交わしたりドタバタと準備をしたりする。

そんな活気に溢れた城下町、ロマリアの宿の一室に勇者(の末裔)一行はいた。

 

いた、のだが。

 

「うぅーあ、頭痛えぇ……」
「ちょっと、クエルス……あんたなんで酒なんか持ってたのさ……」
「そういうてめぇが一番飲んでただろうが……」
「しかもそのまま朝を迎えちまうとはな……見事に二日酔いしたんだな、これが」

 

――の会話で、大体どういう状況下はご理解していただけるだろう。

少年二人に少女が一人。片方の少年は呼ばれたとおりクエルスという名前であり、フルネームがクエルス・フォード。もう片方の少年はリューゼ・アルマーという名前で、少女のほうがシャルナ・ラヴァーレだった。

前のほうで少し述べたとおり、彼らは(といってもクエルスだけだが)大魔王ゾーマを倒した勇者のひ孫・つまるところ四代目にあたる。勇者の名はアラン・フォードであり、世界全土を恐怖のどん底に叩き落したゾーマを討伐したことは、平和になった今でも永遠に語り継がれることに――

 


――なっているわけでは、実は無かった。


大魔王ゾーマは今、地下世界アレフガルドで謎の復活を遂げ、配下であるバラモスに地上界の侵略を開始された。それはまさしく百年前の悪夢の再現といえ、呼応するように活発になった魔物の活動とも相まって、再び世界は暗黒の雲に包まれることになるのだった。

そしてクエルスは、勇者の血を直系で受け継いだ者として、魔王討伐に立ち上がった――


――わけでも、実は無かった。


ゾーマが復活する前。まだ世界が恐怖の予兆さえも告げなかったとき、クエルスは夢を抱いたのだ。いつか、この広い世界を全てこの目で見てみたいと。そしてクエルスが十四になってしばらくした日の朝、彼は遂に幼馴染のシャルナと共に、その夢を見事かなえたのである。


――要は「勇者の宿命」ほっぽらかしでふらふらしているだけである。


では残ったリューゼは何なのかというと、二人がレーベの山中で知り合った少年である。辺りに焦げ臭い匂いが充満していたり、黄色い波紋が走る魔剣・ウェルゲインを所有していたりと、彼自身、及び出会った状況にも不審な点が多いのだが、何のショックを受けたのかリューゼ自身が記憶喪失に陥っており、詳しいことは何も分からぬままだった。

ただ、極めて高い体術能力・戦闘技術を有しており、また保存食の加工・調理も行えるらしく、どこかで戦いの日々を送っていたことは推測がつく。

まあ、だからといってどうということはないのだが。


ちなみに先ほどの会話は、アリアハン地方を突破した三人が、新天地について羽目を外し、酒を飲みまくって見事に二日酔いをしている内容である。


とりあえず、この状況では全く動くことが出来ないので、ひとまず彼らは酔いを醒ますことにしたのだった。

 

 

 

「……さて、と……」

酔いから何とか覚めて(クエルスが一回、リューゼが三回、シャルナが六回吐いた)復活したクエルス君ご一行は、ひとまず城下町に繰り出していた。

「……で、どうする?」

いつ決まったのか、一応リーダーのクエルスが聞く。それに対し、真っ先に答えたのはリューゼだった。

「俺はひとまず、情報を集める。どんな状況であろうとも、情報はあればあるだけいい。もちろん、いくつかのもんを照らし合わせて正確性も模索するがな」
「なんでそこまで無意味にピリピリ張ってるんだ?」
「……知らん。多分、情報を集めれば何か俺の記憶も戻るかもしれんからかね」
「……ああ、なるほどな」

リューゼの言葉に頷く横で、シャルナがクエルスに声をかける。

「じゃあ、あんたはどうするの?」
「俺はもちろん、ヤマチュウと共に行動して……」
「行動して?」
「片っ端から女性に声をかけて、デートしてくれる相手を探し――」


シャルナの蹴りが、いっそ綺麗に炸裂した。

 

 

 

 

「さて、どうだった?」

夕方――宿の一室へ戻ってきた三人は、ベッドに腰掛けて情報交換を試みる。とはいえ三人部屋でベッドは横並びなので、リューゼだけは床に座る陣形だ。クエルスが苦笑して隣を叩くと、リューゼも特に遠慮なく座る。その間に、シャルナが切り出した。

「……どうだったといっても、あの騒ぎになっていれば、みんなが得た情報なんて同じなんじゃない?」
「だろうがな」

その言葉に、クエルスも否定することなく頷く。それほどまでに、面倒な状況が起こっていた。クエルスはもう一度頷くと、状況を一旦整理しにかかる。

「OK。まずは情報を整理しなおそう。確か、ここで起こった事件は二つ。まずはカンダタという盗賊に、王国の金の冠が盗まれたってヤツだったな」
「ああ」
「そして二つ目。こいつが一番、面倒なんだろうが――」

 

「長くても一月。その時期を以って、魔王軍がこの国に攻め込んでくるらしい」

 

 

 

第七話(第一章)・搦め手へ

目次へ

第九話・謁見と準備へ

 

トップへ

 

inserted by FC2 system