第十九話

演習場、再び


「……よう。久しぶりだな」

ロマリアの演習場の一角――クエルス・フォードは、懐かしい少女と再会していた。何年も前に幾度か顔を合わせただけの、息を呑むほど美しくなった空髪の少女。少女はクエルスのほうに歩み寄ってくると、ぽうとした目で彼を見上げた。

「おにい、ちゃんっ……!」

記憶そのままの懐かしい声を出して、少女はクエルスにそっと抱きついた。少女も決して背は低くは無いが、クエルスの身長はかなり高い。結果的に、少女の顔はクエルスの胸に来ることになってしまった。

「……久しぶりだな。元気だったか?」
「うん……」

クエルスも少女にハグを返すと、そっと肩をつかんで離した。少女も特に抵抗することなく、すんなりと離れる。

この展開にさしもの兵士長も呆然とする中、リューゼが苦笑して歩み寄ってきた。

「なるほど。お気にの僧侶って、フィオナのことだったのか」
「ああ」
「お気に……」

妙なところで反応したフィオナをさておき、クエルスはリューゼにも声をかける。

「どうだ、兵舎生活は?」
「全然。女の子いねーし、気合なんて入らねーよ」
「貴様! 甘ったれるな! それにクエルス殿も、フィオナ様を離してください!」
「いや、離してるが……」

ここで兵士長が怒鳴り声を上げ、クエルスはそれにぼやいて返す。リューゼは締まりのない笑みを浮かべて兵士長を指差すと、小さく肩をすくめてみせた。

「自分より強い男が来ちゃったもんだからさ、こいつ俺にめっちゃきつく当たるのね」
「貴様! 言うに事欠いてなんて事を!」
「だってあんた俺と戦ってくれないじゃないですか。俺そろそろクーデター起こしますよ?」
「反逆罪として処分してくれる」
「……ま、こんな男とも少しだけの付き合いと思うと、寛大にもなれるってもんさ」
「こ、この男、言わせておけば……」

決して狭量ではないのだろうが、どうもこの二人、相性は何か悪いようだ。

まあ、それはさておき――


「フィオナ」
「なに?」
「いろいろと話したいこともあるが、この場でまったりと話し合うわけにもいかん。が、もはや時間が無さ過ぎる。積もる話は、ひとまずこの事態を乗り切ったらだ」
「そうだね」
「フィオナは、いつもここに来るのか?」
「……そうね。ヤマチュウさんみたいな強い人もいるし、多分そうなると思うけど」
「そうか……分かった。折角だし、明日からはシャルナも連れてこよう」
「シャルナって、幼馴染さん?」
「ああ。そいつとリューゼと三人で、今は旅をしていたところだ。といっても、アリアハンから出てきたばっかりだがな」
「そう……」


フィオナから必要な情報を仕入れ、クエルスは一つ頷いた。

「それじゃあ、今日のところはこれで。また明日、仲間連れてくるよ」
「うん、分かった。それじゃあ、また明日ね」
「ああ、また明日」

かつての幼い頃と違い、長期の別れになるわけではない。『また明日』その約束をしっかり交わし、クエルスとフィオナは別れを告げた。

 

そして、それから一週間。クエルス、シャルナは、フィオナやリューゼ、兵士長らと共に、兵士らと混じって訓練を重ねた。


が。


「あ、クエルス! ちょっと頼みがあるんだけ――」
「おにいちゃん、組み手やろ」
「おう、いいぜ」
「ああーっ! あたしが先に頼もうと思ったのにー!!」
「遅いよ」
「あ! 今この娘、舌出した! 馬鹿にした! なめたまねしやがって、この女ーっ!!」
「どうどう。落ち着け、シャルナ。組み手だったら俺がやって――」
「あんたとやるとセクハラ働かれそうなのよっ!」
「のおっ!? そりゃどっちかっていうとクエルスだろ!」
「あんたにやられると腹立つのよっ!!」
「なんで俺だけ!?」


――お世辞にもこの四人。特に女性陣の相性はよろしくないようだった。

 

そして、一週間後――彼らは、作戦会議に出席することとなる。

 

 

 

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