第十六話

盗賊の処分、記憶喪失の処分


「……負けた、ようだな」
「金の冠を、返してもらうわよ」

戦いが終わり、凍った腕をかばうカンダタに、凍らせた少女が冷徹に告げる。カンダタは持って行けと吐き捨てると、隅においてある袋に顎をしゃくった。クエルスがその袋の中を開けると、幾多の盗品と思われるものの中に、輝く一つの冠がある。

「……カンダタ」

それを拾い、クエルスは聞いた。

「お前、盗賊業から足を洗うつもりはないか?」
「……は?」

その言葉は、さすがに意外だったらしい。ぽかんとした顔で聞き返すカンダタに、クエルスは続ける。

「ロマリアがな、魔王軍に宣戦布告を食らったんだ。王は今、腕に自信のある者を募集している。俺らをそこまで追い込んでくれたお前らなら――志願してくれると、ありがたい」
「…………」


そんな言葉に、カンダタは笑った。ふん、まさかな――自嘲の混じった言葉で、カンダタはクエルスにこう返す。


「……まさか、この俺をそういう道に誘うとは、思わなかったがな」

そう呟くと、カンダタは苦笑を浮かべて立ち上がった。

「……いいだろう。王のところまで、連れて行ってくれ」

 

 

 

 

「……というわけなんです、王様」

それから、数十分後――カンダタをひっ捕らえたというクエルスたちの報により、異例の速さで叶った謁見の中、クエルスたちは事情を説明していた。王はふむと頷くと、カンダタたちに問いかける。

「……おぬしら」
「はっ」
「知っての通り、いまやロマリアは魔王軍から宣戦を布告され、大騒ぎとなっておる。そのため、一人でも頼もしい味方が欲しいところなのだ」
「…………」
「そこで、じゃ。諸君が我がロマリアの陣営として戦いに参加し、見事手柄を立てることが出来れば、諸君を無罪にしても構わん」
「なっ!?」

その言葉に、慌てたのは大臣や兵士である。だが、お待ちくださいと叫ぶ彼らを、王は片手を挙げて制した。

「だが、功をはやるあまり、無謀なことはしてはならん。それが約束できるなら、この条件で諸君らを無罪放免とさせてやろう」
「本当、ですか……?」
「うむ。そのような返事を返すということは、心は決まったようだの。一週間後、作戦会議がある。それまで、精進をするがよい。修行方法は一任するが、使用武器だけは告げてくれ」
「ははっ」
「ということであるが……兵士長は、何か言うことはあるか?」
「……いえ。特には、功をはやるなということを告げたなら、兵士達も特に異論はないでしょう。何より今は非常時です。王の行動が、間違っているとは思えません」

ただ……と、兵士長はそこで言葉を切る。そして、リューゼのほうへと向き直った。

「リューゼ・アルマー。お前はしばらく、ロマリア兵の一員として演習を受け、今度の戦に参戦してもらう」
「あ、やっぱり? そりゃそうだな、俺ほどの男を、軍隊が放っておくはずがねえか」
「軽口を叩くな。そもそも貴様は……」
「分ぁってますって。監視の意味もあるんでしょ? 身元不明の謎の男をほっぽり出すには、状況が切羽詰まりすぎてる。一応飯も出るんですよね? そうなったら宿代も浮くし、変な疑いがかけられないならそれで別に……って、どうしました?」

承諾の返事を返していたリューゼだったが、その最中に兵士長の顔がどんどん暗くなっていく。リューゼも思わず言葉を止め、兵士長に問いかけた。兵士長は眉根を寄せて、リューゼに対してこう返す。

「……やはりな……」
「は?」
「やはり、考え方が素人じゃない……貴様、軍隊経験者だな?」
「クエルスの野郎にもそう言われましたが……仮にそうだとしたら、一体どうだっていうんですか?」

変わった空気を察知して、リューゼも挑発的に言い放つ。だがさすがに兵士長というべきか、そんな挑発には乗らなかったようだ。ため息をついて感情を排出すると、リューゼに向かってこう告げる。

「……まあ、いい。一応、兵士宿舎のほうに部屋は用意しよう。当面、そこで生活してもらいたい」
「へいへい。女兵士はいるんですか?」
「甘ったれるな」

遠まわしな答えを聞き、リューゼはやれやれと肩をすくめた。

 

 

 

 

「それにしても、まさかリューゼが拉致られるとはな」
「別に拉致られたわけではないでしょ?」

カンダタたちと城下町を下りながら、クエルスはシャルナに呟いた。シャルナはそれに返事を返すと、話題を転換して全員に聞く。

「作戦会議は一週間後だけど――みんなは、それまでどうするの?」
「俺たちは、勝手に修行しよう。そんなに大多数と群れるのは好きじゃない。この近くで適当にキャンプを張って、魔物を倒しまくっているさ」

敵の数も減るだろうしな。そうカンダタは付け加えて、背中の斧をぱしんと叩く。お前らは? そう聞き返してくるカンダタに、クエルスとシャルナはこう答えた。

「俺は今までどおり、ロマリアの宿に拠点を構えるさ。二日に一度は兵士の演習に出て、もう片方は城を出て魔物退治と行くけれど――シャルナ、お前は?」
「あたしもそれでいいよ」
「……と、いうわけだ」
「なるほどな。じゃあ、もしかしたら外で会うかもな」
「はは、そうだな」

そんな会話を全員で交わすと――カンダタたちは、手を上げて外へと去っていった。

 

 

 

 

 

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