第十四話 

シャンパーニの塔


「ここが、シャンパーニか……」

ひゅううぅぅ、と、高い風鳴りの音がする中、クエルスたち一行は立っていた。目の前には、荒れ放題ともいえる塔が、空高くに聳え立っている。

「盗賊の根城か……確かに、いかにもって場所よね」

塔を見据え、シャルナが苦笑と共に言う。その横で、クエルスが扉に手をかけた。

「……行くぜ」

その言葉と共に、クエルスは扉を思い切り引っ張る。扉は鈍い音と共に開くが、やはり老朽化が進んでいるのか、最後までは開かない。空いた隙間に滑り込むように、クエルスたちは入り込んだ。

 

 

「……げげっ!」

一行が入ってから数分後……三階に上った彼らは、とんでもないものを発見した。言葉にすれば一言だが、実際は蒼白ものである。というのも、

「壁が、ない……?」

ので、ある。幸い床は広くはあるが、それでも安心など出来ない。この塔の中はさまよう鎧やこうもり男、ギズモといった連中がうようよしており、ひとたび彼らと交戦状態になってしまえば、どれだけ床が広くとも落下の危険性はついて回る。しかもそれはこの高さだ。落っこちてしまえばただでは済むまい。

「……っていうか、こんな面倒な事やらかして、当のカンダタがいなかったら泣けてくるな」
「いいや、その可能性は低いな」

クエルスのぼやきに、リューゼが返した。どうしてだ? そう聞くクエルスに、リューゼは鋭い目で考察を述べる。

「入り口の扉だ。木製の扉に金属製の取っ手だったろ。この塔の外観がこれだけ荒れ放題だって言うのに、取っ手は結構綺麗だった」
「綺麗だったって、錆び付いてたじゃん」
「クエルスが扉を開けた後だ。あいつの手に、錆びはついていなかっただろ。本当に荒れ放題だってんなら、手に錆びの汚れぐらい付くはずだ」
「なるほどな……」

シャルナの反論にも、リューゼは冷静に言い返す。それを受けて、クエルスもふむと頷いた。

「それにしても……」
「なんだ?」
「自分で開けたならともかく、よく人が開けたのにも目ぇ配ってたな」
「全体にしっかり目を配る、軍隊行動の基本だからな」
「軍隊って……お前、どっかの軍人かよ?」
「なるほど、言われてみればそんな気も……って、そうかなあ?」

クエルスの指摘に、リューゼは首をかしげて唸った。と、その合間にシャルナが声を上げる。

「……あ」
「どうした?」
「あれ……」
「あれ?」

シャルナが指差すその先を、クエルスは目で追っていき――

「……って、なんでカンダタの名前入りパンツがこんなところに干してあるんだーーーーー!!」

――ロープにつるされたパンツとシャツが、ぱたぱたと風にはためいていた。

「うわ、俺なんかマジでやる気なくしたわ……」

げっそりとした顔で、リューゼがぼやく。その横で、さらにげんなりした顔でクエルスもその場に立っていた。というか、大の大人のくせしてパンツにでかでかと「かんだた」とか書く奴がいるのだろうか。しかも平仮名。

「……もしかしてカンダタって、超ガキなのか?」
「見た目は大人、頭脳は子供! みたいな」
「やめてくれ……」

この依頼、引き受けたの間違いだったかな……何か無意味に疲れた足を引きずりながら、クエルスたちは上へと向かった。

 

 

六階の扉をこじ開けて、その先にあった七階への階段を上っていく。その先には、いきなり生活観のある空間が広がっていた。なんだお前らはとテンプレ通りのセリフを吐いた雑魚Aみたいな鎧武者は、親分に報告だと階段を駆け上がっていってしまう。とりあえず、クエルスたちは後を追いかけることにした。


その先には、でかい大男が座っていた。でかくない大男がいるのかは知らないが、筋骨隆々たる体躯は、そう思わせるに十分だろう。大男はクエルス達の来訪に、一つ笑うと立ち上がり――

「――おい待てせめてその格好どうにかしやがれぇ!!」

――クエルスが全力で突っ込みを入れた。

緑のマスクに緑のマント、下はパンツ一丁だ。しかも、ブーメランパンツというやつだろうか、最低限のところしか隠されていない。シャルナが悲鳴を上げる中、何故か大男もぴくりと肩を震わせた。

次の瞬間、天高くに響く怒号が炸裂する。

「笑いおったなあぁぁ!」
「いや、別に笑ったわけじゃないと思うんだがな……」

……とはいえ、動作は違えど、本質的意味合いは同じだろう。曰く「あんな格好信じられない」。しかも――信じたくは無いが――あの男、あのファッションに自信を持っていたらしい。話し合いの意図すら持たず、逆上した男は部下と思わしき面々と共に、三人めがけて襲ってきた。

 

 

 

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