第三幕

冒険者の親睦


そんな騒ぎの数時間後。

「邪魔するぞ、ベルド。開けてくれ」

食事のトレーを持ったエドが、足で扉をノックする。ちょっとどころではなくマナー違反をやらかしているのだが、両手がふさがっているのでは仕方が無い。

「あ、いらっしゃーい」

扉が開き、顔を出したのは妻のヒオリだ。夫のベルドは部屋奥のソファで背中を向けて、手だけをひらひらさせて歓迎の意(?)を伝えていた。ソファからは頭しか見えない。思いっきりぐでーっとして座っているらしい。

「ほらほら、ベルド。せっかく他の人が来てくれたんだから、しゃきっとしてよ」
「へいへーい」

のそーっ、と体勢を立て直し、ベルドは後ろを振り返る。そのままにこやかな笑みを向けて、アドルたちを歓迎した。

「来い来い、こっちのほうが気楽に話が出来るだろ? お前らの部屋に比べれば、少しはグレード落ちてるからな。多少は汚したって大丈夫だ」
「……この時点で汚すことが視野に入っているのはどうかと思うが、たしかにその通りだな。しかし、部屋のグレードで差をつけるなんて、向こうは何を考えているんだ?」
「うーん、まあ、俺らはこっちの方じゃそんなに名前は知れてねえしな。とはいえ、豪華な部屋なんか落ち着かないから、楽といえば楽なんだが」

そんな言葉にちょっとひねくれた返し方をしたエドに、ベルドも首をかしげながら意見を述べる。元々貴族という面々は、基本的に扱う冒険者に差はつけない。身分の高いお偉方を招くような高級な客室もあるといえばあるのだが、依頼をした冒険者、特に複数パーティがまたがる場合、平等に扱うのが鉄則中の鉄則だ。冒険者同士によほど隔絶した実力差や名声でもないかぎり、最悪暴動すら起きかねない。

「でもまあ、俺らの部屋も別に悪いってわけじゃねえし。元々、普通の冒険者はこのレベルの部屋に通されるんじゃねえ?」

グレードは下だとか言うものの、センスよく統一された内装や壁にかかった絵画まで、普通の宿屋なんかよりは十分にランクの高い部屋である。ベルドとヒオリが差別を食らったというよりは、アドル達『勇者のための四重唱』が非常に有名だったからより丁寧な扱いを受けているというのが妥当なところだ。もとより不当な扱いは受けていないし、六人ともその程度で文句を言うような連中でもないため、部屋の差に対しての感想はそのくらいにして、実質的な話し合いに入る。

「とりあえず、そんな所に立ってないで座ってよ。色々と話もしたいんだからさ」
「分かった。それなら、遠慮なく」

微笑んでくるヒオリに微笑を返し、エドは仲間達を促した。そして自分はアドルの隣に腰掛けると、早速食事の前で手を合わせる。

「いただきます」

六人ともどもきっちり食前の挨拶をするあたりが、多少の礼儀を髣髴とさせる。あまりそうは見えないのかもしれないが、貴族連中からの依頼も受けている彼らは、その程度の教養はあるのかもしれない。シリィが面白そうに笑って、ベルドとヒオリを見つめてきた。

「へぇ。多少は仕込んであるんだね」
「ん?」
「元々、奴隷だったんだろう? よく教えてあるじゃないか」
「……何が言いたい」

いきなりちょっと暗くなりかかった空気に、シリィはひらひらと手を振った。

「いやいや、別に悪い意味じゃないよ。元々、アドルが物語が好きでね。ついでに昔話も好きだから、その辺はよく調べるのさ」
「ってことはお前ら、俺らのことを知ってたのか」
「あまり外界の情報は入ってこないから、詳しいことは知らないけどね。ヒオリが奴隷だなんてこと、多分この国じゃ他の誰も知らないんじゃないかい?」
「奴隷じゃねえ、元奴隷だ。今はちゃんと平民だ」

アドルの悪い癖だよ、なんて続けるシリィに、下らないのは百も承知でベルドは言い返して訂正する。シリィは失礼と小さく笑い、微笑を浮かべて謝罪した。ベルドも悪いねと言い返すと、用意された肉料理に手をつける。鶏肉を手に取りながら、エドが今日の戦果を思い出して苦笑した。

「ここまで豪勢なものを作ってくれると、信頼してくれる依頼主に申し訳ないな」
「ま、明日から頑張ればいいんじゃねえ?」

戦果というのは、当然ながら今日の調査内容のことである。はっきり言って、痕跡の一つも見つけることが出来なかったのだ。特にパーティーが行われる大ホールは、机の下から間取りに配置、シャンデリアの裏から扉の影、最初に調べた通風口やら換気扇、天井裏に床下と、徹底的に調べたはずだ。

「一番大きな部屋ですし、隠し場所も豊富……室内では、一番怪しいところだとは思ったんですけれど」
「そうだろうね……」

まさしく、あり一匹見逃さないほどの詳細な調査をしたはずなのだ。そのはずなのに、はっきり言って収穫はゼロ。怪しい仕掛けを設置した跡はなかったし、通風口に至っては多分何ヶ月も触っていない。床下の土にも怪しいところはなかったし、壁の隙間から何かが狙いを定めているなんて事もなかったはずだ。

ここまで収穫がなかったのに、それなりに豪勢な料理を並べてくれていたりすると、さすがに依頼主に申し訳ない。元気付けてくれる意味合いもあるのかもしれないが、食欲が増す理由はなかった。

――が、アドルにとっては食欲が減る理由もなかった。胃が訴えるままに鶏肉を飲みこみ、魚の切り身を口の中で咀嚼し、水を含んでパンをちぎる。

「……よく食うなお前、客の癖に」
「何をわけの分からないことを言っているんだ? 私たちに出された食事だろう、食べないでどうするのさ」

切り替えがしっかりしているのか単に楽観的なだけなのか。そんなアドルに苦笑いするベルドの横で、ヒオリが暖かいスープに手をつけた。おいしい、という声が漏れる。さすがは貴族様の食事である、そんじょそこらの庶民の食事とは比べ物にならない。

「うぅぅ、もうこんなもの食べちゃったら、奴隷時代の食事なんかに戻れないよう」
「俺はお前にそんなひもじい思いをさせてたか?」

むずかゆそうに言うヒオリに、ベルドは半分頭を抱えて突っ込んだ。ヒオリは「んーん」と首を振ると、ベルドに少し擦り寄ってきた。しかし、食事中に邪魔をしてはいけないと考えたのか、一度だけ摺り寄せてすぐに戻る。この辺りの配慮が出来るのが、いつまでも甘えていられる秘訣なのかもしれない。ベルドも口元をほころばせると、水を含んで食事を続けた。

「まあ、でも確かに、こんなもん食ったら冒険用の保存食とかに戻るのには抵抗あるわな」
「えへへ。旅の見積もりを間違えて保存食がなくなっちゃったときなんか、木の皮とかロープまで食べてたもんね。それに、奴隷時代にあんなものばっかり食べてたから、こんないいもの食べたりすると涙が出るよ」
「……それは思い出させないでくれえ……」

ベルドにとっても、あれは痛恨の失敗だった。ヒオリと共に旅に出てからしばらくして、ある街で保存食を購入したのはいいのだが、見積もりを間違えて次の街に着くまでに切らしてしまったことがあるのだ。あの時は随分とひもじい思いをさせてしまい、残り少ない保存食を半分に分けたら、ヒオリはさらに半分に分けて、四分の一だけを胃の中に入れた。残りは食べないのかと問いかけたらヒオリは小さく首を振り、後で食べるんだと言って笑った。

申し訳ない思いで謝ったベルドだったが、その夜、もう保存食も切れていたのだが、まだ残ってはいないものかとしぶとく自分の背嚢をあさったところ、ヒオリの残した四分の一の保存食が入っていたのだ。聞いたベルドに、ヒオリは言った。食べちゃったから、ボクじゃないよ、と。

ヒオリのおなかは、鳴っていたのに。

――いろんな意味で泣いたベルドは、それ以来多少荷物がかさばろうと、多少財布に痛かろうと、保存食だけはいつもより多めに購入し、絶対にひもじい思いだけはさせないことを誓ったのだ。元々余裕を持って購入していたのだが、その余裕度合いはさらに上げ、今では多少のことでは問題ないようになっているわけなのだが、それはともかく。

「ロープ? あんなものまで食べるのかい?」

ヒオリの話から面白そうなものを聞き取ったのか、シリィが興味深げに聞いてくる。ベルドは若干申し訳ない気持ちを抱き直しつつ、シリィの質問に返事をした。

「まあな。とはいえ、普通のロープはさすがに食えんから、特製品になるんだけど」
「特製品?」
「ああ。ちょっと待ってな」

箸を休めて立ち上がり、ベルドは冒険用の荷物の中から二本のロープを取ってくる。一本は三十メートル、もう一本は十メートルほどの長さがあり、ぱっと見ただけでは違いはない。

「こっちの長いほうは普通のロープ、短いほうが俺様お手製の食用ロープだ」
「へぇ。ちょっと見せてもらっていいかい?」
「いいよ。どうせこのままじゃロクに食えん」

渡されたロープを、シリィはためつすがめつ眺める。正面に座るフェイスもそのロープを覗いてくるが、やっぱり普通のロープにしか見えない。が、匂いをかぐと、かすかにいい香りがした。

「これは……その、味噌、ですか?」
「ああ。里芋と山芋の茎からナイフで繊維を切り出して、束ねて味噌で煮固めたものだ。並のロープと同等ぐらいの頑丈さがあって、刻んで湯にぶち込むだけで食料にもなる」
「縄が即席の味噌汁になる……と、いうことですか?」
「戦場や冒険ではな、食料がすげえ大事なんだぞ。知ってるだろ?」
「たしかに、そうだな」

ベルドの言葉に同意したのは、エドであった。少し遅れて、フェイスやシリィ、アドルも頷く。ギルドを通して依頼を受け、大なり小なりそれらのバックアップのもとで仕事をする彼らには分かりにくいのかもしれないが、基本的に流れ流れている二人にとって、食料の確保は死活問題だ。山奥や砂漠なんかで食べ物を切らしてしまおうものなら、冗談抜きで命にかかわる。

「ま、それなりに多めには買うようにもしているけどな」

シリィの手からそのロープを返してもらい、自分の背嚢に入れてベルドは食卓へ戻ってくる。食事の最中にむやみに席を立つのは、マナー上からもよろしくない。まあ、強行軍の結成時には保存食を使って歩きながらの朝食を摂るなんてこともたまにやらかす彼らにとって、いまさらマナーもへったくれもないのだが、守れるところでは守っておきたい。

「ところで、ベルド。一つ、聞きたいことがあるのですが」

と、話の空気が一段落して、席に座りなおしてスープを口につけたベルドに、フェイスが何やら期待のまなざしで見つめてくる。目線だけで続きを促したベルドの前で、フェイスは「それ」を投下した。

「もう、ヒオリとはえっちとかしたんですか?」

ぶはっとベルドとヒオリが揃ってスープと水を吹いた。げほげほと咳き込みつつ、紙を大慌てで口元にやる。気管に入ったらしく、鼻と口を押さえて悶絶するベルドと、真っ赤になってうつむいているヒオリを見て、フェイスは恍惚とした表情で天を見上げた。

「ああ、やっぱり……」
「やっぱりじゃねえっ! メシ食ってる真っ最中に何言いやがる!!」

怒鳴り返すベルドであったが、フェイスは聞いていないのか、返事の一つも寄越さない。ぶん殴ってやろうかと一瞬思うが、席は机を挟んだ対角線。残念ながら、拳はほとんど届かない。

「まぁ、聞くのは野暮というものだな」
「うるせえてめえは何無駄なジェントルメン精神発揮してんだ! おい、アドルも何か言ってやれ!!」

顔だけは至って大真面目なエドとにやにやしているシリィを見て、ベルドは残ったアドルに助けを求めて叫ぶものの

「獣」
「だああぁぁぁっ!?」

先ほどまで散々からかわれていたことへの仕返しか、アドルから来たのは追い討ちだった。

 

 

「……さて、と。それじゃあ、ちょっと食事を返してくるよ」
「ん? 別にいいだろ、そのうち給仕係が回収に来るって」

フェイスが投下した爆弾が波紋どころか津波を呼び、ベルドが三枚目に転落したなんてこともあったが、とりあえず親睦会を兼ねた食事はひとまず終了。調理場に食事を返そうとしたアドルに、復活したベルドが意見を述べた。しかしアドルもわざわざ返しにいこうとしたのにはわけがあったので、その点はしっかり説明する。

「食器がこんなにあったら邪魔だろう? 速いところ返しに行ったほうが効率的だ。私とエド、後は姐さんで返してくるから、ベルド達はテーブルの後片付けと、後は見取り図を広げていてくれないか? そうすれば早めに作戦会議に入れる」
「おお、なるほど」

納得したのか手を叩くベルドに、アドルは食器を整理して重ねる。そのままトレーを持ち上げると、扉を開けて部屋を出た。

一階にいた適当な使用人に挨拶してトレーを返し、引き継ぎを完了してとんぼ返り。ベルドとヒオリが泊まる部屋では、既にテーブルをふき取ったベルドが見取り図を広げて待っていた。

「本当に早かったな」
「まあね。特に厨房まで行ったわけでもなかったし、その辺に置いておいてくれればいいって言われたから、お言葉に甘えて引き返してきたんだ。……それで、状況は?」
「……正直、厳しいな。まあ、とりあえず座れよ」

アドルの反問に、ベルドは苦い顔を浮かべる。詰めたベルドの隣にヒオリ、対面にはフェイスが座っており、フェイス側にアドルとエド、ヒオリの隣にシリィが座った。ベルドは見取り図の一点を指差すと、アドル達に解説を開始する。

「俺らはとりあえず、パーティーが行われるという大ホールを中心として、基本的な室内の捜索を行った。が、収穫が何もなかったのは知っての通りだ」
「そうだね」

あの後、大ホールと調理場のほかに、隣接するトイレや武器庫、協力を得たアルミラの私室、さらには主人が出かけていったというのでこの隙にルミーラの私室にも忍び込んで調べたものの、罠の欠片も見つけることは出来なかったのだ。大ホールとは隣接していない部屋も隣接した部屋ほどではないものの結構念入りに捜索しており、何も出てこなかったことは完全にくたびれもうけである。

「そうなると、明日は外を調べるか、もう一度念入りに調べるかの二通りとなるわけだが……正直、外は大ホールの裏手でもない限り、調べる意味は薄いと思う」
「そのようだね」

ベルドの考えに賛同したのは、アドルだった。アドルは大ホールの窓があった位置を指差すが、苦い表情を顔に浮かべる。

「大ホールに窓こそあったけど、外から狙う利点というものが考えられない。あるならやっぱり室内だよ」
「……前提条件として、そもそもトラップがあるのかどうかも疑問です。あったとしても、どうやってピンポイントでルミーラ様を狙うのですか?」
「それを言ったら、終わりじゃない?」

アドルに続き、フェイスも否定的な意見を出す。彼女の言った通り、そもそも罠があるのかどうかという前提条件にも、彼らは正直首をかしげていたのである。

そもそも罠というものは、事前に仕掛けておけば自分は全く疑われないという反面、狙い済ました相手を正確に殺すことは難しい。対象一人しか通らないような道に仕掛けておくのならばまだしも、今回の大ホールで行われるようなパーティーの最中に、罠を用いて殺害を狙うのはいささか非効率的な手段といわざるを得ない。

付け加えて言うなら、パーティーが室内で行われるのに外にトラップを仕掛ける可能性はほとんどないと言っていい。仕掛けても正確にルミーラを仕留められるとは限らないし、別の奴を殺してしまって警戒されては意味が無いからだ。勿論それは室内に仕掛けても同じなのだが、そちらのほうがまだ成功率は高いだろう。

そんな共通認識がありながらも調べずにはいられないのは、やはりそれが依頼の内容であるからだ。常識的には考えがたいことでも、実際にはあるかもしれない。低い可能性ではあるものの、一つ一つ潰していく。そういった地道な作業があって、初めて依頼を進めることが出来るのだ。

「エド、あんたはどう思う?」
「俺か? アドルやフェイスも言っていたが、罠はあまりないと思うな」
「お前もその意見か……」
「正直な。俺が暗殺者だったらパーティー会場に紛れ込んで、ルミーラ当主の周りに人が少なくなったタイミングを見計らって遠くから毒塗りの投げナイフでも飛ばすだろう」
「ヤな想像するな、お前。すると暗殺者は、やっぱりパーティー会場に紛れ込んでくるって事か?」
「多分な。大ホールでお前も調べてくれた通り、罠が仕掛けられているとしたら精々通風口とか換気扇とかに、睡眠ガスの発生装置かなんかが仕掛けられている程度だと思ったんだ。それもなかったという事は、他の罠がある可能性は正直あまり考えられない。とはいえ、奇想天外な手で裏を突いてくるって事は考えられるから、明日はそれを調べに行くんだろうけどな」
「やれやれ、気乗りしねえぜ」

三人ともども否定され、さらには自分もそういった考えだったのだろう、ベルドは大きなため息をついた。理論的に考えて可能性の薄いものを丸々一日探すほど、気の重い作業はそうそうないのだ。

「とはいえ、調べなくちゃどうしようもねえ。とりあえず、何処から調べようか決めようぜ」
「そうだな。まずは妥当なところとして、ホールの周辺か……」

 

 

「ヒオリー、いますかー?」

作戦会議を終えてちょっとくつろぎ、さてそろそろ風呂でも行こうかとベルドが腰を上げたころ。部屋の扉がノックされて、フェイスとシリィが顔を出した。『勇者のための四重唱』の女性陣二人組の登場であるが、残念ながら用があるのはベルドのほうではないらしい。

「いるよ、なあに?」

呼びかけに応じて、ヒオリがひょこっと顔を出す。その姿を見たフェイスは、間に合いましたと微笑んだ。

「せっかくですし、お風呂でも一緒にどうですかって、誘いに来たんです」
「え」

が、それを受けたヒオリの動きは、ちょっとうろたえたものだった。目線を落ち着きなく周囲にやって、最後にベルドのほうへと向ける。

「別に、気にすることはないよ」

困ったヒオリに答えたのは、ベルドではなくシリィだった。シリィはフェイスと同じく微笑を浮かべ、ヒオリの心配を言い当てる。

「アドルがその手の話が好きだっていうのは、夕食の時に話したろう? ヒオリの体に傷があることぐらいは察しているし、そのことも織り込み済みで誘いに来たのさ」
「…………」

フェイスが安心感を覚える笑みと表現するなら、シリィは頼りになるような笑みと表現するか。同じ微笑を浮かべているのに、受ける印象は全然違う。

そういえば、シリィはよく姐さん呼ばわりされていたっけ。そんなことを思うベルドの前で、ヒオリは小さく笑って二人に聞く。

「……いいよ。でも、あんまり引きすぎないでね?」

多少は引かれることは覚悟しているのか。ヒオリの人を見る目はなかなか鍛えられている。その彼女が信用するということは、悪い人ではないのだろう。現に自分も、フェイスやシリィは悪人には見えない。

「じゃあ、お風呂行ってくる」
「おう」

手早く入浴道具を準備すると、ヒオリは部屋を後にした。ベルドは片手をあげて、そんなヒオリを見送っていく。今回は別にしっかり鍵をかけられるので盗難を恐れて部屋に誰かが居残っている必要はないのだが、これもぶっちゃけ慣習か。

そういえば、大雑把とか言われるのにこの辺の機微には敏感なんだな。そんなことを思ってシリィの評価を改めるベルドだったが、別に敏感なのではなく、そこまで細かいことを気にするような女性ではないからかもしれなかった。

 


 

 

 

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