第十一幕

道理と感情


「でえぇりゃあぁっ!」

常人離れした脚力で飛び出したベルドが、手近のミルヴェーラに襲い掛かった。神速の斬撃が、ミルヴェーラを分断しようと迫る。ほぼ同時にヒオリが電撃の術式を放ち、集中攻撃を食らったミルヴェーラは大打撃を受けて後退した。別のミルヴェーラが攻撃を繰り出すがこれをベルドはカウンターで叩き返し、怯んだ所にシリィの火炎が襲い掛かった。

「何をやっているんだい、話し合えば平和的に済んだかもしれないじゃないか!」

その考え方は、やはりアドルの仲間だからか。対してベルドは、そんな事は知ったことではなかった。

「だったらあんたらもこっから消えな! この女は、いっぺんぶった斬ってやんねえと気が済まねえんだ!」
「お前という奴は……!」

戦いたいから戦うような、そんな分別の無いことはしない。ただ、敵対していて、ムカついているから斬り落とす。それだけだ。

「君はどうして、そうやって無意味な戦いを挑むんだ!」
「だったら消えろっつってんだろ!」

燃え上がる火を消す時に、方法は三つあるといわれている。全て燃え尽きるまで待つか、空気の供給を止めるか、水をかけて発火点以下の温度にするか。今のアルミラが激情に燃え盛る炎だとすれば、アドルたちは冷静に話し合い、今回の例で言えばリーグも交えた平和的な話し合いを以って、解決しようとしただろう。つまり、冷静な話し合いを続けることで、空気の供給を止めながら発火点以下の温度に下げていくという方法が、アドルたち『勇者のための四重唱』のやり方だった。

対してそんなことが苦手なベルドは、四つ目の方法を選択するのだ。すなわち、燃え上がる部分に爆薬を放り込み、爆風と衝撃で消すという方法である。

あるときは、その解決のほうが早い。またあるときは、その解決は余計にややこしくなり、さらなる停滞と時間をかける。そんな、リスキーな方法だった。

目的は一つ。アルミラに冷静さを取り戻させ、この召還の契約を切ることだ。

召還魔術は、その対象と何かの契約を結んでいる。それは人の寿命そのものだったり、あるいは美少年や美少女といった生贄だったり、または人間には何の価値も無いガラクタみたいなものだったりする。しかしミルヴェーラを、それも十二体も呼ぶような契約は、並大抵の代償なんかではなかったはずだ。

アドルたちは、話し合いで自ら召還の契約を切り、送還の儀式を行わせようと考えていた。

対してベルド(とヒオリ)は、召還された魔物に対して必要以上のダメージを叩き込み、地獄にお帰り願う方法を取ったのだ。

「話し合って解決して、全てが終わったならばそれに越したことは無いだろう!」
「人間ってのはな、話し合いだけじゃ解決できねえこともあるんだよ!」

果たしてアルミラが話し合いで解決できたかどうか、それを知る者はもういない。この場にいたのがアドルたちだけだったなら、まだ話し合いを行っただろう。しかしベルドとヒオリが見切りをつけてしまう点は、彼らよりも遥かに低かったのだ。そしてさっさと見切りをつけてしまった彼らがそのまま勝負を挑んだために、事実上話し合いは決裂した形となってしまった。

だが、彼らをせっかちで短気だというには、少々強引な解釈といえる。こうなった女は、そう簡単に戻らない。そのことを、彼らはよく知っていたのだ。

もちろん、アドルたちも知っていただろう。しかし、ベルドはもう、見切りをつけてしまったのだ。曰く「そっちのほうが手っ取り早い」。

「……荒事は、得意ではないんだけど……!」

こうなった以上、やるしかない。即座に思考を切り替えて、アドルも剣を抜き放つ。続けざまにエドが弓矢を番え、目にも留まらぬ五月雨撃ちでミルヴェーラたちを攻撃した。

シリィの火炎が叩き込まれ、フェイスの二段突きが手負いのミルヴェーラを地獄に落とす。エドがベルドのカウンター攻撃で打撃を受けたミルヴェーラに弓矢を打ち込み、アドルがそれを叩き斬って二匹目を戦闘不能に追い込んだ。

「――――っ!」

聞き取れない声と共に、空間がねじれる。同時に放たれた漆黒の弾丸が、アドルたちに襲い掛かった。シリィが即座に魔法を起動し、火炎を放って迎撃する。燃え落ちる漆黒の欠片の向こうに、忌々しげな顔をしたアルミラが映った。

「ちっ……」

アドルたちの果敢な戦いぶりに、当初は余裕を持っていたアルミラもだんだん余裕が消えてくる。彼らが輪からすれば、包囲されているということは逆に考えれば戦力が分散されているということであり、一転集中攻撃で突破してしまえば後はどうにかなるものなのだ。

「あの弓使いを叩きなさい! 接近戦に持ち込んで、攻撃の物量にかけて葬り去るのです!」
「!」

余裕の消えたアルミラは、即興で作戦を練り上げる。ほぼ乱戦状態となっていたミルヴェーラがその声に反応し、エドめがけて襲い掛かった。

弓や銃といった射撃武器、あるいは槍といった長柄の武器は、接近戦に持ち込まれると弱い。手近にいたエドに攻撃を集中させるのは、確かに有効な手段といえた。

一匹目の攻撃をかがんで躱し、二匹目に対してカウンター気味にナイフを鋭く突き立てる。三匹目の攻撃を鮮やかなスウェーバックで回避すると、のけぞった上体はあえて戻さずに倒れるに任せ、バク転を繰り返して距離を取る。だが、その先にももう一体のミルヴェーラが接近していた。

「甘い!」

対するエドは、自ら距離を詰めるように突進する。一直線に突っ込んでくるエドを迎え撃つように、ミルヴェーラは横薙ぎに刃を振るった。対するエドは、ほとんど地面に滑り込むようなダッキングで攻撃を回避し、そのまま前転の要領で一回転。縦に孤を描いた右足の踵でミルヴェーラの頭頂部を狙った。

「――――!!」

攻防一体の胴廻し回転蹴りは、さすがにミルヴェーラの意表をついたようだ。とっさに腕を頭上に掲げて受け止めたものの、半端ではない衝撃が抜けてくる。ミルヴェーラはどうにか凌いだようだが、エドは倒立状態となった体を片手で支え、今度は左足でミルヴェーラの胸板を蹴り飛ばす。

たたらを踏んだミルヴェーラに、作用・反作用の法則で体勢を立て直したエドは、そのまま追撃を叩き込もうと試みる。しかし、地面に足こそ着いたものの体勢を立て直しきる前に別のミルヴェーラに追いつかれ、エドは攻撃を中断せざるを得なくなった。

「させないよ!」

そこに、白刃と銀光が割って入った。とっさにかばったアドルが敵の攻撃を受け止めて、そのままかがみこみながら頭上に力を受け流す。流された勢いで上体の伸びきったミルヴェーラに、アドルは思い切り剣を突き入れた。引き抜くところで腕をねじり、傷をより深くしようとするおまけつき。と、そこで攻撃していたミルヴェーラもろとも、アルミラが爆発呪文を打ち込んだ。

味方まで巻き込んだ強烈な攻撃に、エドとアドルがそれぞれ別方向に吹き飛ばされる。かろうじて受身は取ったものの、吹っ飛んだ先には別のミルヴェーラが身構えていた。一瞬の逡巡の後、フェイスがそいつの攻撃に出る。回復しようかとも考えたのだが、詠唱中にアドルが致命傷を受ける可能性を恐れたのだ。

突き出した槍は、ミルヴェーラに回避される。しかしこのうちにアドルは地面を転がるように脱出しており、フェイスは少しだけ距離を詰めざま、今度は刃先を剣のようにして相手を袈裟懸けに打ち下ろす。しかし、これは相手の刃のような右腕で弾かれる。思い切り跳ね上がった槍を受け、無防備になったところへ先のミルヴェーラがフェイスの胸元に突っ込んだ。

――が。

「エドも言っていたでしょう? 甘いんですよ」

その刃は届くことなく、ミルヴェーラは足を払われる。フェイスは跳ね上げられた槍に弧を描かせ、逆側の石突きで相手の脚部を払い上げたのだ。かと思えば、今度は刃の部分が横なぎに相手を両断しようと迫り来る。どうにか受け止めたミルヴェーラだったが、縦方向に回転させた槍の石突きで脳天を殴られ、地面に伏したと思えば今度は刃先が首筋めがけて鋭く振り下ろされている。

長柄の武器の扱い方は、その長さを生かした突きだけではない。突きは刃先一点にその密度が集中するため、剣よりも遥かに高いダメージを与えられる一撃必殺の武器でもある。しかし、引く時には完全に隙だらけとなるため、突きだけで戦うような槍使いは早々に放逐される運命であった。

槍の本当の扱い方は、円運動による変幻自在な連続攻撃と組み合わせてこそ存在する。武器の両端を攻撃に使えるため、剣のようにわざわざ切り返すこともなく、運動量を保持したまま怒涛の連撃を打ち込めるのだ。ベクトルを変える必要もなく、当然ながらその速度は剣を二回切り返すよりも遥かに早い。今回の例で言うならば、脳天を殴った石突きがそのまま下へ抜けると同時、逆端の刃は振り下ろされているという寸法だ。

先端の刃による斬撃、石突きによる打撃攻撃、遠心力による払い攻撃、そして突きによる必殺の一撃――あらゆる攻撃方法を使いこなせる高い技量が求められると同時に、使いこなせばどんな敵にも対応できる武器となる、それが槍という武具だった。

突き刺された刃から魔力が走り、ミルヴェーラの体を爆発させる。砕け散った敵の体は戦場の空気へ拭き消えて、フェイスは軽く汗を拭った。しかし同時に、敵の攻撃を捌ききることができなかったのだろう、シリィのうめき声がする。

はたとして、フェイスはそちらに向き直る。アドル、ベルドといった前衛組はもちろん、エドやフェイスといった中衛組まで攻撃に出てしまったため、抜かれた後衛が直接相手の危機にさらされたのだ。シリィの右腕に、相手の刃が半ばまで突き刺さっている。しかしシリィは左手を相手の体に添えると、己の魔力を練り上げた。

炎にも吹雪にもすることなく、今回は直接相手の体に叩き込む。左手の先に集約された魔力の塊が、咆哮となってミルヴェーラの体を吹き飛ばした。シリィは腕を抱え込むが、フェイスの魔法が傷を癒す。その横で、ヒオリが範囲攻撃を叩き込んだ。絶対零度の冷気と鋭く尖った氷柱の嵐が、ミルヴェーラの集団を打ち据える。ヒオリの魔力は一部だけが直角に軌道を変え、ベルドの剣に吸い込まれた。氷の力を宿した魔剣が、ミルヴェーラの集団に襲い掛かる。

「でえぇりゃあぁ!」

あまりに鋭く早すぎる斬撃は、ミルヴェーラの体を真っ二つに両断する。三体を一度に葬り去った二人だが、ヒオリは詠唱直後の隙を突かれ、転がって衝撃を逃がしこそするものの大きなダメージを負ってしまう。同時にベルドも、完全にノーマークとなっていたアルミラの槍で殴り飛ばされ、逃げようとするも今度は突きが襲い掛かる。が、針の穴を射通すようなエドの弓矢が槍の狙いを狂わせて、ベルドはどうにか相手の攻撃圏から脱出した。

「――しぶといわね! さすがにちょっとムッと来たわよ!」
「俺もだ!」

氷の嵐が吹き荒れ、続けざまに生じる真空の竜巻がその全てを切り刻む。迸る電撃と灼熱の炎が激突し、爆発の間隙を縫うようにかわされる得物と得物――

大広間の激戦は、両陣営とも体力も魔力も使い果たす総力戦の様相を呈してきた。

フェイスは攻撃より回復に追われるためにペースを落とされ、アドルも元の体力があまり高くない上に最初の爆発で受けたダメージがたたり、動きが鈍くなってくる。ミルヴェーラも全員が負傷及び戦闘不能にされ、ベルドも食らったダメージが回って序盤のようなキレがなくなってきた。

と、ベルドが手負いのミルヴェーラに追撃をかけたタイミングで、別のミルヴェーラが横殴りに襲い掛かってきた。

「しまっ――!」

その言葉は、最後まで言い切ることは敵わない。

敵の突進の勢いをまともに食らったベルドの体が跳ね上がり、地面にたたきつけられる前に別のミルヴェーラに蹴り飛ばされる。かと思うとさらに別のミルヴェーラが襲いかかり、ベルドは声を上げることさえ出来ずに血を吐いて――アルミラが放った猛吹雪が、とどめとばかりに炸裂した。

アルミラが口元に浮かべた微笑が、戦闘の終了を語っていた。

 

 

 

 

「……チェックメイト、ね」

もはやぴくりとも動かなくなったベルドに群がるミルヴェーラを見て、アルミラは余裕の表情で呟く。その様子を見ながら、アドルたちは何をすることも出来なかった。

否、攻撃を仕掛けることは出来る。しかし、それは状況が許さなかった。

ベルドを助けようとした時に、アルミラに先手を打たれたのだ。

まだ彼は生きている。しかし、これ以上攻撃を加えようとするなら、その時はミルヴェーラたちにとどめを刺させる、と。

「てこずらせてくれたわね、冒険者」
「く……」

身を引くことなど、到底出来ない。かといって、ベルドをほとんど人質に取られてしまった今、攻撃を仕掛けることも出来ない。

「甘いのは、貴方たちだったのではなくて?」

先に仕掛けたのはベルドだったのだから、自業自得といえばそれまでだろう。ベルドを見捨てて、戦いを続けるか。それとも、ベルドをとって降参するか。迷いを見せたアドルたちだったが、しかし彼らは忘れていた。

ベルドとヒオリは、常に二人一組で呼ばれていたことを。

そして彼女は、知っていた。

ベルドの出自が、一体なんであったかを。

 


「――荒れ狂えぇぇっ!」


少女の叫びが空間を切り裂き、轟く雷鳴が戦場の空気を引き裂いた。ベルドもその下にいるだろうに、ヒオリは術式を叩き込む。

ヒオリ・エルビウムは、知っていた。ベルドがかつて、世界樹の迷宮を守り続けていた先住民の出自であったことを。そのため、樹海に適応した体つきになっていたことを。

雷の属性には――強い耐性が、備わっていたことを。

叩き落された雷がミルヴェーラたちを吹き飛ばし、最後に残ったベルドの体には傷一つついていない。雷属性の攻撃にしたのは、彼女にとってはあくまで保険。術式を解き放つ前、彼女は同時に一つの空間を想定していた。群がっているミルヴェーラの連中と、群がられているベルド。その合間の、ベルドを取り巻く一枚の壁を。

術式の範囲は、その壁まで。ベルドだけを綺麗に対象から外し、ヒオリは群がる敵だけを正確に雷撃で攻撃したのだ。

と、言葉にすれば簡単だが、実際に行えば困難どころか驚異的といってもいい技量だった。絡み合うように群がっていた相手だけをミリ単位の正確性で、そしてゼロコンマ以下の魔力調整を行って解き放たなければならないのだ。しかも、ほぼ人質であるために、仕掛けるなら一撃で決めなければならない。シリィも、フェイスも。あれと同じことをやれといわれて、成功させられる自信はなかった。

目下、これに関しては無理もなかった。“エルビウム夫妻”も『勇者のための四重唱』も、無意味に力を振るうような無法者なんかではない。しかし、見切りをつけて力任せに解決する頻度はベルドたちのほうが高かったし、彼らの出会いと冒険譚は魔物ひしめく大樹海。おまけに、そのたびが終わってからも流れ続けている彼らは、魔物とやりあう機会も比較にならないほど多かったのだ。腕と力と、そして技量に全てを賭けて、それだけを相棒に生き抜いてきた。交渉能力と絡め手で言えば、『勇者のための四重唱』は、ベルドたちより遥かに強い。だが、単純な戦闘能力に限って言えば――“エルビウム夫妻”は、ずば抜けて高い能力があった。

「うおりゃっ!」

吹き飛ばされたミルヴェーラ連中に剣圧で真空波を放ちつつ、ベルドは転がるように距離をとる。ヒオリはその斜め後ろで構えると、ベルド譲りの不敵な笑みを浮かべてみせた。

「何回言わせるんだよ、甘いって」
「ああ。とどめはきっちり刺しとかねえと、痛い目見るぜ?」

ベルドもそれに続けるものの、やはりダメージが大きいのだろう。剣を持つ手も震えているし、足も少々ふらついていた。それを見たヒオリが、フェイスにこう要望する。

「フェイス。ベルドの回復をお願い」
「――分かりました」

勝負の行方は、これで再びわからなくなった。戦いの落としどころもあるかもしれないが、少なくともここではなかった。フェイスが組んだ魔法が、ベルドの傷を回復する。地面を踏みしめなおして、ベルドは剣を構えなおした。

「お前だけは……一発殴って、一発思いっきりぶん殴っておかねえと、気が済まねえんだよ」

濡れ衣を着せたこと。もちろん、それも腹立たしい。だから、それで一発だ。

だけど、それよりも。

囚人服に無理矢理着替えさせられた時、ベルドやヒオリは多くの兵士に見られながら着替えさせられた。向こうからしてみれば当たり前とはいえ――ヒオリはそれで、思い切り背中を見られたのだ。そして同時に、眼帯も確認のために剥ぎ取られて。

「『勇者のための四重唱』だかなんだか知らねえが、平和的に解決されると困るんだよ! てめえの茶番に付き合わされて、傷抉られたヒオリの痛みは、返してやんねえと困るんだからな!!」

だから、ベルドは勝負を挑んだ。

ここまで来ての最大の焦りは、アドルたちが平和的に解決してしまうこと。ある意味ベルドの最大の敵は、ここではアドルたちだったのだ。

「行くぞ、アルミラ! てめえの処分はヒオリに任せるが、とりあえずは戦闘不能にしてくれる! 殺さねえだけ、感謝するんだな!!」

デビルクライを発動して、ベルドは咆えた。続いてヒオリが、強斬の術式を発動する。空間がねじれ、無形の刃がミルヴェーラとアルミラに降り注いだ。

ベルドの剣が、真っ赤に燃える。ベルド・エルビウムが生まれた先住民族の里において、高位の戦士が使っていた技――煉獄の刃。体を回転させた勢いも込めて、遠心力を乗せた刃がミルヴェーラの一体に襲い掛かった。ミルヴェーラはそれを回避しようとするが、エドの弓矢に脚を打ち抜かれ、バランスを崩してつんのめる。

「でえぇあぁぁ!」

――斬撃。斜めに抜けたベルドの刃が、デビルクライで底上げされた攻撃力も載せてミルヴェーラを真っ二つに斬り裂いた。続いてシリィが灼熱の炎を叩き込み、一刹那遅れてヒオリが大氷嵐の術式を叩き込み、ベルドがまとめて追撃をかける。冷気を秘めた剣が、ミルヴェーラの体を凍りつかせて粉砕した。

「フェイス!」
「はいっ!」

そして、守る盾を失ったアルミラに、アドルとフェイスが距離を詰める。同時、斬撃の勢いを殺さないまま、ベルドが凄まじい勢いで突進した。三人に一気に距離を詰められ、アルミラは魔法で迎撃に出る。しかし、これはシリィの魔法で激突・相殺され、突き出された槍はベルドが受ける。跳躍するアドルと、相手の槍をガイドとして正確無比にアルミラの懐に突っ込むベルドと、がら空きになった横から走るフェイス。剣と槍が、纏めてアルミラの体に突き刺さった。

体を捻り、ベルドとフェイスはアルミラの体を打ち上げる。跳ね上げられた体をアドルが剣で打ち落として――

「行っけえぇぇっ!!」

ヒオリの術式が、墜落したアルミラに最大火力で撃ち込まれた。

 

 

 

  

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