第六幕

帝王と冒険者


「でえぇりゃあぁ!」

自治領の逆襲、先手を打ったのは“エルビウム夫妻”が夫、ベルド・エルビウムだった。敵の横を駆け抜けざまに放たれる、電光石火の神速撃。ベルドが最も得意とする攻撃が、足の間接部を狙って唸る。しかし、その攻撃は後退した相手の装甲に阻まれて、大したダメージにはならなかった。続けざまにヒオリが電撃を落とし、怯んだ所へベルドは今度こそ一撃を入れる。弱点に抉りこんだはずの剣だが、仮にもツァーリが復活させた古代兵器がその程度で倒れるとも思えない。飛び退いたベルドに、狙いを定めた砲弾が襲い掛かってくる。身を捻って回避して、ベルドは後方に一回転。大げさな動作で距離をとると、そこへフィオナの追撃が入った。

「はあぁぁっ!」

落とされた腰から放たれる、音速烈破の六連撃。槍に載せられた風の刃が、怒涛の勢いで相手の装甲を穿っていく。衝撃に押され、機械は数歩後ずさった。本来軽いはずの『空気』なのに、質量も高いはずの機械兵器が怯むとは、その威力は並大抵のものではない。

「退けぇっ!」

ピアソラの機械兵器が、別の兵装を取り出した。銃口は先ほどの砲弾よりも小さいが、それでも脅威になりかねない大きさ。銃口が一瞬光ったかと思うと、大量の弾丸がばら撒かれてきた。一撃一撃が致命傷になりかねない、人を狙うにはあまりに威力の大きい兵装。ヒオリが術式で迎撃しようとするものの、フィオナのほうが早かった。左手が大きく振るわれると同時、乱気流のベールがベルドたちを包む。ヒオリさえ抜いた詠唱速度で魔術発動が括られ、攻撃を凌ぐと同時にフィオナは既に反撃体勢に入っている。

「せえぇいっ!」

フィオナの五月雨突きと、ベルドの連撃……共に手数で圧倒する攻撃は、巨大な機械兵器をも退かせた。ピアソラはならばと格闘戦に持ち込み、質量でフィオナを潰そうとする。

重力加速度を加えた拳がフィオナに振り下ろされると同時、フィオナは強烈な上昇気流を起こしてその衝撃を相殺する。体勢を崩したピアソラの兵器に片手で槍をしゃがみながら持ち替えて、体制を戻す勢いも載せて思い切りカウンターを叩き込んだ。

「があぁっ!?」

体のばねを使えるだけ使った、隙の大きいこの攻撃。しかし、相手が体勢を崩していて、十分に命中が狙えるならば、これほど有効な攻撃もない。その細腕のどこにそんな力があるのか、先の一撃は五メートルの機械装置さえ仰け反らせた。痛みはなくとも衝撃は伝わるのか、兵器の中から悲鳴が上がる。ベルドはそんなピアソラの機械装置の体を駆け上がると、顔面部分に思い切り飛び膝蹴りを食らわせた。仰け反った所を反対側の足で蹴り飛ばし、同時に反作用の法則で大きく飛び退く。

「雷よ、荒れ狂えっ!」

次の瞬間、計ったようなタイミングでヒオリの大雷光が炸裂した。並大抵の敵など全て貫き引き裂いていく爆雷は、その一部だけが軌道を変えてベルドの剣に吸い込まれる。同時、天井を蹴り飛ばして再び敵に突っ込んだベルドは、ヒオリの雷を宿した剣で強烈な追撃を叩き込んだ。しかし、ダメージを覚悟で繰り出された拳が、刹那の差をもってベルドの体に打ち込まれる。

「がはっ!」

全長五メートルの機械装置が持つ拳は、当然人間のそれとは比較にならないほど巨大なものだ。まともに食らって吹き飛んだベルドは、壁に埋まって咳き込んだ。と、フィオナが呪文の詠唱をくくり、ベルドの体を緑色のオーラが包み込む。復活したベルドはすぐさま行動を再開し、追撃の砲弾を回避した。最も回避に失敗しようと、その前を駆け抜けたヒオリの電撃が撃墜していただろうが。

「サンキュー二人とも。助かったぜ」
「余計なお世話だったみたいだけど」
「いや、まさか」

意識は敵のほうに向けたまま、ベルドはフィオナと言葉を交わす。短い会話を終え、フィオナは槍を担ぐように後ろへと回し、続いて前のほうへと突き出した。だが、動作を終えたとき、槍の穂先は上である。物理攻撃ではなく、呪文詠唱を行ったらしい。

ヒオリが使う、どの術式にも当てはまらない詠唱法。ベルドの頬に一筋の風が吹いたかと思うと、ピアソラの乗った機械兵器が真空の竜巻に巻き上げられていた。

「嘘だろ……」

呟いたのは、ベルドである。魔術の威力も、物理戦の能力も。かつて自分が師と仰ぎ、稽古をつけてもらった少女の実力。あの時よりもおそらく磨きがかかっているであろう戦闘能力は、自分の予想をはるかに上回って余りあった。

今回の竜巻だってそうだし、先ほど相手の攻撃に対して打ち返した、魔術と物理を組み合わせたカウンターの一撃。かつて自分の仲間であった、果てなき強さを追い求めたあの侍の男でさえ、あんな芸当は出来ないだろう。

そしてそんなベルドの横で、ヒオリも愕然とした顔でフィオナの魔術を眺めていた。魔法系攻撃をたしなむヒオリも、ベルドとは違う見方でこそあれ、彼女の実力が嫌というほど分かるのだろう。

世界樹の近くの地方を治める、アーティミッジという貴族がいる。奴隷売買で財をなし、ヒオリのかつての持ち主でもあるアーティミッジ家。脱走したヒオリを連れ戻しに来た、次期当主であるリーシュという男には、ベルドは共にいた冒険者仲間全てと五人がかりで戦ったのに、無残な敗北を喫したことがあった。その後、さまざまな要因が絡んでリーシュは結果的に撤退し、ベルドはその時たまたま町に滞在していて、しょうもない事件で知り合っていたフィオナのもとに転がり込み、彼を倒すための修業をつけてもらったことがあった。血を吐くような修行とともに戦ったのは、ヒオリの身分を縛る鎖と、リーシュ本人。今思い返してみても、あの土地で行った最大規模の激戦の一つであっただろう。修行の後にも実力差は埋まらず、そのために己の力を弱く見せ、相手が本気を出せないタイミングを見計らって最大級の大技をぶっ放して打ち倒すという、一種卑怯な作戦勝ち。あの時よりはるかに実力をつけた今でさえ、一騎打ちならおそらく勝つことはできるだろうが、それでも激戦は免れない相手。奴の実力は、それほどのものがあるだろう。

――そう、奴の実力には、それほどのものがあるのだ。

だが、フィオナは。そんなリーシュごときなど、鼻で笑って打ち砕くほどの実力者だった。そして、彼女は最後にベルドと会い、別れ際にこう言った。自分は術者で、本来は回復魔法や補助魔法の使い手であると。

事実、修行をつけてもらった際には一週間、日に三回組み手をして、二人がかりでたった一撃も与えられないまま終わってしまった。そのあとベルドは純粋に一人の戦士として挑んだものの、結果は武器まで捨てての正真正銘捨て身の体当たりがたったの一発。

今でなら、二人がかりなら、倒せるかもしれない。リーシュがベルドと一騎打ちをして若干ベルド寄りと考えるなら、フィオナはいまだに勝てない相手。歯が立たなくはないだろうが、想像をしても一騎打ちをして自分が勝てる未来というものが早々思いついてこない。

しかしフィオナは、ベルドやヒオリの反応に面白そうに笑うと、小さな風を吹かせて我に返した。

「味方が呆然としてどうするの? まだまだ、相手は動けるけれど?」
「あんた……あんた、もしかして……」

だが。ベルドと、おそらくはヒオリも。その実力から、フィオナの行動を理解してしまった。当たっていてほしいような、ほしくないような。どちらともつかぬ心境のまま、ベルドはフィオナに問いかける。

「もしかして、あんた……まさか、遊んでるのか……?」

その言葉に。フィオナは、一瞬だけあっけにとられたような顔をした。しかし、ベルドの言葉を理解したのか、フィオナはくすっと笑ってみせる。

「ふふ、ばれちゃった? 遊んでいたというよりは、様子を見ていたんだけれどね」
「……お前、何を考えている……」

ベルドの言葉は、ヒオリにも、そしてピアソラにも共通のものだっただろう。小さな問いかけに、戦いが止まる。フィオナは槍を後ろ手に持つと、だって、と言葉を小さく紡いだ。

「見てみなければ、ならなかったから」
「何を、だ?」
「この自治領の覚悟。ベルドさんには、言ったよね? 民があっての王国だし、民があっての自治領だって」
「……ああ」
「私はね。これでも、ある王国の第二皇女なんだ。幼いころは修道院に預けられていたけど、人を治める資質かどうか、その観察眼は嫌というほど鍛えられてる」
「…………」
「手を貸す以上、見極めなければならなかった。この男が暴政を繰り広げて、今の自治領は堕落した。レジスタンスの人が統治権を奪い返したとして、それで本当に自治領は平和になるのかを、ね」
「だから、お前は……」
「そう。覚悟を見せてもらったの。自治領の人たちの、レジスタンスの人たちのね」

だから、倒さなかった。戦ってみてわかる。ベルドやヒオリの二人がかりでも、十分にこの機械兵器は潰せるはずだ。いや、むしろベルド一人でも、それなりのダメージを覚悟すれば倒せるだろう。戦いが始まってから、三対一とはいえ、ほとんどベルドたちはダメージを受けていないのがその証拠だ。

「もっとも……今は、お弟子さんとライブさんの実力を見てみたかったっていう、個人的な理由だったけどね」
「…………」

微笑むフィオナの底知れぬ「人」を感じ取り、ベルドは小さく苦笑する。その前で、ピアソラは何かを押し殺したような声を上げる。

「貴様ら……黙っていれば、好き放題言いおって……!」
「そろそろ、負けを認めたら? あなたは、絶対に私には勝てない。それどころか、この三人のうちの、誰一人をとっても、勝てるとは思わないほうがいいと思うよ」
「ふざけるな! ツァーリ殿が渡してくれた最新鋭の兵器が、このような小僧小娘に負けるものか!」
「――へっ」

ツァーリ殿……その名を楯のように使った男に、ベルドが苦笑を漏らした。わかっていないのか、この男は。いや、わかっていたとしても、目を向けたくないのかもしれない。

「そりゃそうだろ。ツァーリほどの男が、そんな馬鹿をするわけがねえ。お前『同志』か?」
「『同志』……?」
「――ああ、わかった」

肯定も否定もせず聞き返した時点で、答えは明らかだった。ツァーリは自分の仲間を『同志』と呼んで、ほかの人間と区別している。簡単な話だ。相手は友好関係があったかないかは知らないが、完全に自分の仲間ではないのである。そんな奴に、用心深い男が自分と同等のものを売るだろうか。

ツァーリはおそらく、嘘などついていない。「販売する兵器の中では」間違いなく最新鋭のものだったのだろう。ただ、それが「ほんのちょっと」自分たちが保有するものよりも旧式だっただけで。

それでも、一般の人には脅威だっただろう。普通の戦士には、かなわぬ相手だっただろう。

だがここにいるのは、“エルビウム夫妻”のベルドとヒオリ、そして、単独ずつでの戦闘能力ではその二人さえも上回る、“風使いの姫君”フィオナだった。

「もう、十分かな。レジスタンスの人も、本気みたいだし。ベルドさんとヒオリさんの実力も、十分に見れた」
「貴様……」
「降伏してくれないかな。私はあなたを倒すためにいるわけではないの。私はあくまで、さすらいの冒険者。雇われているだけの立場だし、その機械も、自治領のために使えれば、もっともっと平和になれると思うのだけれど」
「……貴っ様あぁ!!」

調停は難しいだろうけれど、私がやるから。そう続けるフィオナだったが、ピアソラは忠告を無視して襲い掛かる。まあ、ここまで圧政と暴政を行ってしまえば、もう退けないのも分からなくはないが――

「……馬鹿な人」

そう呟いて。フィオナの体に纏われる空気が、変わった。同時に、ベルドも苦笑して、その力を発動する。

使わなくても、勝てる相手だ。だけど今は、自分の成長を、かつて師として仰いだ少女に見てほしかった。

ベルドの体から、赤紫の光が迸る。吼え声に似た叫び声は、自分の生まれ育った先住民族の技。ベルドの血が、肉が、瞳が、そして体が、戦闘用に作り変えられる。

「行っくぜえぇ!」

地面さえ踏み抜かんとするほどの震脚が、ベルドの体を押し出した。速く速く、何よりも速く。速さを力とする、ベルド・エルビウムの戦いの真骨頂。

突進の勢いも載せて、ベルドは剣を叩き込む。同時にヒオリが火炎の術式を解き放ち、炸裂の直前にベルドは相手の体を蹴り飛ばして距離をとる。一瞬の後にベルドは床を蹴ってベクトルを前方へ変換し、タイミングを同じくして飛び込んできたヒオリの魔力の残滓を剣に込めて、燃え上がる炎斬撃を叩き込んだ。斬撃が右足の付け根から左足の膝下までを斜めに抜け、体制を崩した相手にヒオリが今度は上空から氷柱の嵐を起こす。絶対零度の氷柱に貫かれた敵は体勢を立て直そうとするも、同時に凍らされた床のせいで体勢を崩し、そこへベルドが放った真空の刃で完全に仰向けに倒れてしまう。

そしてベルドたちの上に、影が差した。見上げると、宙を舞うのは槍を逆手に構えた少女の姿。重力加速度の助けも得て、フィオナは敵の核に深々と槍を突き込ませていた。

「――行っけえぇぇっ!!」

乾坤一擲、駆け抜けた裂帛の気合と共に、フィオナの体から槍を伝って膨大な魔力が流し込まれる。ピアソラの兵器が、一瞬だけ動き――

――爆発。

内部から迸った、凝縮した嵐にも匹敵する暴風に乗せられたエネルギーが、ピアソラの乗った機械兵器を粉々に打ち砕いた。

 

 

「く……」

荒れ狂う『力』の暴波が終わり、ベルドはゆっくりと顔を上げた。フィオナの放った爆風の波は、百戦錬磨のベルドやヒオリさえ戦闘を放棄して身を伏せさせるに十分だったのだ。

体を起こすと、周囲はまさに荒れ果てたというに相応しい光景だった。元々ピアソラが砲弾で爆破した上に、フィオナの風が吹き荒れたのだ。最早原型さえもほとんど残っていない、まさに力と破壊に蹂躙された跡地であった。

「…………」

視線を動かすと、前方で機械兵器の残骸に埋もれ、倒れているピアソラの姿が目に入った。意識はあるのか逃げ出そうとはしているようだが、上にのしかかっているものの重さとフィオナたちの力に腰が抜けて、まともに体すら動かせていない。

「――立てよ、ピアソラ」

そんな“帝王”と名乗った独裁者に向けて歩み寄り、ベルドは残骸を蹴飛ばして言った。唸り声のようなものを上げる“帝王”の腕を引っつかみ、強引に残骸の中から引きずり出す。

「き、貴様……」

かつて自治領の中で“帝王”と呼ばれ、恐れられた独裁者は、崩れ落ちた虚勢を張ってベルドたちに問いかける。

「貴様ら、冒険者の分際で、何も分からぬ分際で……!」
「分からねーよ、そんなの」

不敵な笑みを口元に浮かべ、ベルドは返す。

「だけど、フィオナは分かってるみたいだぜ? まあ、俺も彼女のことは、正直よくは知らないんだけどな」
「くっ……!」
「だけどな。そのフィオナが言ってたぜ。民あっての王国で、民あっての自治領だってな。俺に政治のことはよく分からんが、そいつを理解しないまま、ただ上から睨むだけでどうこうやってりゃ、そりゃこんな反乱が起こるのも当たり前だ」

自分はかつて、奴隷だった一人の少女を助け出している。その少女が、奴隷という身分を甘んじて受けていたか――答えはノーだ。ヒオリはその身分から束縛を嫌って脱走し、そこでベルドと出会ったのだ。そこで起こった助けた惚れた告白したデートした云々はさておき、ベルドは最も身近に、そしてヒオリは自分自身のこととして、そういうことを知っている。

それが分からないようでは、所詮は支配者の器じゃない――そう告げるベルドに、男は最後の抵抗をする。

「だ、だが貴様がこのクーデターに参加する意味合いなどなかっただろう! 貴様らがこんなことをしなければ、自治領の連中など我が兵士達の敵ではなかったのに――!」
「分かってねえな、てめえは」

叫ぶ男に、ベルドは冷徹に続けていく。

「その俺らやフィオナを雇ったのは、自治領の連中が苦労して溜めた金なんだとよ。結局お前は、自治領の連中に負けたんだ」
「う、ぐぐ……だが、だが、貴様がこのクーデターに参加する意味合いは……」
「ま、金で雇われたからな」
「貴っ様あぁ!!」

へらへら笑って盛大に神経を逆なでする男に、ピアソラの元々長くなかった理性の糸は音を立ててぶち切れる。だが、自分を守る盾を失った男に、この三人を止める筋合いはない。あっさりとベルドに組み伏せられると、フィオナに後ろ手に縛られて、騒ぎを聞きつけた民衆の前に引っ張り出される。

こうなってしまえば、もうピアソラには何もなかった。群集の前に引っ張り出された“帝王”は、既に絶望と恐怖で硬直している。居並ぶ群集とベルドたちを見て、自分のやってきたことがどれだけ傍若無人なものだったか、ピアソラは理解したらしい。

もう、全ては虚勢に過ぎなかった。ピアソラは砂の上に這い蹲ると、まるで子供のように泣き始める。だが、今まで押さえつけられていた群集達は誰一人として憐憫の情を浮かべる者はおらず、ピアソラは――

「……もう、いいんじゃない?」

――フィオナ・クレイスの静かな声が、この場所を静かに駆け巡った。フィオナはゆっくりと歩み寄ると、ピアソラの顔を上向かせる。

砂と涙で汚れている独裁者だった男の顔を、群集の方に向けさせる。そしてフィオナは、ピアソラに向かって言葉を発した。

「分かるでしょ。これが、貴方が虐げてきた人々の姿。覚えておきなさい。人間っていうのはね、押さえ込めば反発するの。還元力っていうやつでね、人の心を掌握するのは並大抵のことじゃないのよ。なのに、貴方はそれをしようともしなかった。結局ね、貴方には今、そのツケが回ってきているのよ」

言いながら、フィオナ自身も改めて群集を見渡していく。今までピアソラに虐げられてきた、自治領に住む住民達。この場の誰もが、ピアソラのしかるべき処分を求めていた。

「住民達からすれば、貴方は殺されても仕方がないの。貴方はおそらく、それだけのことをやってきた。だけどね、私は一応聖職者の端くれだから無駄な殺生はしたくないし、そもそもそれで今までのツケが支払われるとも思えない。今まで散々、貴方は人を虐げた。だったら、その分――」

そこで一旦、言葉を切る。フィオナは大きく、息を吐いて――

「――今度はきっちり、そのツケ支払って行きなさい!!」

ピアソラの髪をひっ掴んで、思い切り地面にたたきつけた。

ピアソラはその後、果てしなく自治領のために尽くすと、群集の前で誓わされた。そして手と足を鎖で縛られると、まずは屋敷の建て直しをたった一人でやらされることが決定した。その間は、一滴の水さえ与えられずに。

手下の兵士共にも、自治領の環境改善のための苦役が課せられることとなった。人々は、レジスタンスは、自分達の勝利を確信して――歓声を、上げた。

 

 

 


 

 

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