プロローグ

真夜中の衣装選び


「いかがでございますか、旦那様」
「うむ、素晴らしいな」

暮れた日を全く感じさせない室内で、イブニングスーツを着込んだ男が鏡の前で己の姿を確認していた。男の斜め後ろには、その服を持ってきた一人の執事が控えている。男は満足げに笑みを漏らすと、執事のことを褒め称えた。

「このスーツ、どこで手に入れてきたものなのだ?」
「はっ。ロンベルト家のお坊ちゃまが、旦那様によく似合うであろうと贈答していただいた服装でございます」
「ほほう、ロンベルトが。さすが、あの家のご子息は気が利くな」
「おっしゃるとおりでございます。旦那様も、よい縁組をなさいました」
「ふむ、上手だな」
「滅相もございません、本心でございます」
「ふふ、そうか。では、そう受け取っておくことにしよう。……ところで、アルミラはどうしている?」
「お嬢様でございますか。やはりあれ以来、お部屋からは出ていらっしゃらないご様子で……」
「ふむ、そうか。しかし、そのうちあれも気付くであろう。ライラスの小僧との縁組など、あまりに馬鹿げていたことにな」

ふっ、と唇の端を釣り上げて、男は笑う。頭を下げる執事に、男は頷いてこう言った。

「よし、ではこの服にしよう。着替えた後、別の者に届けさせるから、くれぐれも汚損などのないようにしてくれたまえ」
「かしこまりました、旦那様。それでは、私は失礼いたします」
「うむ」

執事が消え、男は一人自室へ残る。着替えを済ませて係を呼び、同じ事を注意する。その者も消えた後、男は三度笑みを漏らした。


残すところは、後五日。全く、その日が楽しみでならないぞ。


 

 

 

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