エピローグ

彼らが主従を結ぶとき


 
あれから一週間が経過した。酒呑童子にやられた怪我はひどくはなく、桐夜は二日の休みの後、すぐに学校に復帰できた。

桐夜の意識が戻ったのは、対酒呑童子戦の翌日のことだった。横には置手紙が置かれており、あの後雪沙が運び込んで怪我の手当てをしてくれたことと、自分は黄泉国に戻ることが書かれていた。当然雪沙の姿はなく、塚本桐夜の事件はあっけなく幕切れになったわけである。

で、現在は期末試験期間中である。正直言って滅茶苦茶きつい。かくいう今も家で必死こいて英語の勉強をしている真っ最中であった。今まで受けた試験の手ごたえも絶望的で、通知簿が返されたら塚本家に雷が落ちることだろう。

「ぐあー、辛ぇー、死ぬー」

一人でブツブツ言いながら勉強しているこの光景は正直言ってかなり不気味だろうが、嫌なものは嫌なのだからしょうがない。

「……つーかさっさと黄泉醜女の連中来いよ。今ならもう何の抵抗も殺されてやるからよー」

机に突っ伏してぼやく桐夜だが、両親とも仕事に出ている以上答える者は誰もいない、虚しい現実がそこに――

「……残念でした。あなたはまだまだ葦原中国で生きてもらいますから」

がばっと跳ね起きて後ろを見る。暗がりとなる押入れを空けると、声の主はいた。
 
 
……ったく、一沙さんみたいに瞬間移動しやがって。

「……雪沙?」
「はい」
「……えっと、つまりどういうこと?」
「ええっとですね……」 
 
 
その後の雪沙の話を纏めると、大体以下のことになる。
 

本来黄泉国の脱走者に対して黄泉醜女は、黄泉国のトップ・黄泉神や伊邪那美神等の、要するに上司から追討命令を貰って、初めて追い捕らえることが出来るのだそうだ。だが雪沙は姉・更
沙が殺されたときに追討命令もなしに反射的に酒呑童子を追って飛び出してしまい、あまつさえ一般人――まあ、これは桐夜のことだろう――を巻き込んでしまった。

本来ならば極刑になってもおかしくはないが、雪沙は酒呑童子を倒し、捕まえてきたその功績だけは評価され、また、経過はどうあれ、桐夜は雪沙を助けた面を考慮され、結局その巻き込んでしまった桐夜の護衛と監視を命令された、というわけらしい。

なんでも、一沙さんも一緒になって頼み込んでくれたらしいが。
 

……結果として特例頼まなくても大丈夫だったらしい。

「そういうわけなので……これからも、末永くよろしくお願いいたしますね、桐夜様」
 
「……ちょっと待て」
 
雪沙の言葉に聞き捨てならないセリフが混じっており、桐夜は思わず突っ込みを入れる。

「……なんで『様』付け?」
「知らないんですか? 黄泉醜女は、誰かの下について仕事をすることも多いんですよ? 特に、伊邪那美神様には、何十人もの配下がいらっしゃいます」

そんなことを告げる雪沙に、壮絶に嫌な予感が走り。

「……おい。念のため聞くが、お前はこれから、どこに住むんだ?」
「ここですよ? そうしないと護衛できないじゃないですか」

予感的中。こいつの居候をどう親に説明しようか考えて、桐夜は頭を抱えるのだった。
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