エピローグ


「よーし、二人とも、忘れ物はないなー?」
「あったって今更戻れんだろうが、ド阿呆が」
「あ、あはは……」

 トウヤの言葉に、ゴーズさんが大真面目な声音で答えた。そんな二人のやり取りを聞いて、ボクはとりあえず笑うしかない。

 あの後、「ミミィはすぐに帰ってくるって言ってましたよ」みたいなことを言って家の中に一旦入り、荷物を纏めて窓から脱出大作戦。出た先に、トウヤが下から吹雪を吹かせて、その勢いをプラスしたジャンプで屋敷の塀を飛び越えた。いつもあれで移動すれば早いんじゃないかと思ったけど、あんなことを続けていれば数分で魔力が切れちゃうらしい。それもそっか。

「さてと……そうなると、行き先は変えなきゃなんねえんだよな……」

 ロンデ村の統治を任されていたことから考えると、多分ファルメルウーナはトネールの部下みたいなものだろう。少なくとも、何かのつながりがあるってことには間違いない。そのため、もうこのトネール領を旅することは出来ないのだ。

「東はバリガディス、西はトネールなんだから……北西に向けて、ソワンでも目指すか」
「ソワン?」
「ああ。こっから北西の、ロワーガ山脈を越えていくことになる。かなり険しい山みたいだから、貴族のキャラバンも追いかけにくいだろうしな」
「でもそれなら、逆に読まれちゃうんじゃないの?」
「ま、そん時ゃそん時だ。つったって、トネールの領土から出るんだったら、どこもかしこも険しい山脈は越えなきゃなんねえ。一番険しい山脈を選んだわけでもないんだし、追うにしたってヤマカンだろう。そのうちにとっととソワン領に入ってしまえばいいだけの話だ」

 それでいいのかと思うけど、確かに「家」として追いかけることが出来るのは、自分の領土の中だけだ。別の領土まで捜索隊を出してしまえば、余計な火種の元になる。許可を得て入るにしたって、わざわざ険しい山脈をぞろぞろキャラバンでは越えないだろう。

「ゴーズはどこか意見はあるか?」
「特にない。拙者は修行さえ出来るなら、細かい場所は問わんからな。そのソワンとやらで構わんだろう」
「了解。セナは?」
「もちろん、ボクもいいよ」
「そっか」

 ゴーズさんに聞いて、ボクに聞いて。両方から同意を得られたトウヤは、荷物を大きく背負いなおす。

「――じゃあ、行きますか!」
「ああ」
「うん!」

 地図をしまって、トウヤは村の出口のほうへと歩き出す。こそこそ出るより、こうやって堂々と出ちゃったほうが、案外ばれないものらしい。トウヤが真ん中を、左隣をゴーズさんが歩き、空いているトウヤの右隣に、ボクは小走りで追いついた。そのままトウヤと歩調を合わせ、三人で並んで歩き出す。

 

 ――ボクの身分は、奴隷だった。

 トウヤと一緒に歩きたいと、何度も何度も夢に見て。それでも身分という名の現に、何度も何度も涙した。

「トウヤ」
「ん? どした、セナ?」

 だけどトウヤは、そんなものなんてなんでもないと、優しくボクを受け入れてくれて。

「んーん、なんでもない」

 そんなボクの抱いた夢は、叶って現実のものとなる。

 二人じゃなくて、ゴーズさんも加えた三人だけど。そんなことは、大した問題なんかじゃない。ゴーズさんは尊敬できるし、いろんなことを教えてもらえば、きっとトウヤに相応しい女に、なっていけると思うから。

 その日を、ちょっとだけ想像して。ボクは少しだけ、トウヤのほうへと擦り寄った。

 


 ボクは、セナ。

 冒険者パーティ“ソルティーヤ”の一員で。

 トウヤ・フェザーセリオンの、彼女だ。

 

 

 fin

 

 

 

 
 
 
 
 
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