プロローグ
世の中というものは、相当不公平に出来ているらしい。
目の前の光景を見ながら、ボクはため息をつくしかない。
目の奥が熱くなるけれど、ぐっと飲み込んでボクはこらえる。
だって。
だって、それは――絶対絶対、納得なんていかないけれど――絶対に、望んじゃいけないものなんだから。
ボクは、セナ。
冒険者パーティ“ソルティーヤ”の一員だ。
この世界には、とても多くの冒険者がいる。いろんな目的を持ってる人がいて、いろんな理由で冒険をしている人がいる。ボクの理由は……まあ、あれだけど、とにかくいろんな人がいるのだ。学がないから、難しい言葉は使えない。
「おーい、ミミィさーん、セナちゃーん、そろそろ町に着くけどいいかー?」
「うん、いいよー」
先頭を歩いていた少年が、ボクたちのほうを振り返る。それに対して、少し間延びした声で、ボクは答えた。
この男の子は、トウヤ君。男にしてはやや長めの髪に、すらりとした長い手足。顔は――うーん、イケメンってほどじゃないんだけど、それでも二枚目の端っこには引っかかりそう。でも、結構態度が軽くって、よく言えば人懐っこい。悪く言えば、クールでかっこいい評価が下がっていた。
ボクは魔術師をやってるんだけど、トウヤ君の魔法もまた凄い。特に氷の魔法が半端じゃなくうまくて、本場の魔法使いをやってるボクよりも強いほど。他の魔法はからっきしなんだけど、拳と氷を組み合わせた、速さを得意とする戦法は、思わず見惚れてしまうほどだ。
「――ええ、もちろん、構いませんわ」
そして、ボクと一緒に答えたのが、ミミィという女だった。
……この女が、気に食わない。
しっとりした黒髪は、よく手入れされていて。どこかの貴族の令嬢が、略式で身につけるような格好をしている。実際、どこかの貴族の娘らしい。行方不明になった家族を探してるって聞いた。
……なんだけど、とにかく気に食わない。この女、メンバーの中で、一番金銭感覚が壊れてる。ボクはどうしても納得行かないし、それに……
「……なんだ?」
と、ちらりと向けた視線の先から、重い声が帰ってきた。
ゴーズさん。ボクたちの中では最年長で、果て無き強さを追い求めて旅をしているという変わり者の侍さんだ。普通、冒険者は遺跡とかを探索して、お宝を求めるトレジャーハンターみたいなこともしているのに、この人はその遺跡が険しくて修行が出来れば満足し、お宝なんかそっちのけの変人さん。なんだけど、不思議とトウヤ君とはウマがあって、ボクたちが一緒になる前から、二人で旅をしていたそうだ。
二十歳ぐらい年は離れてるし、片方は軽い人で、もう片方は寡黙で重い人でと逆の性格をしているしで、どこが合うんだか分からない所が本当に不思議だ。男の友情、というやつだろうか。
「んじゃ、町に入って、また食料の調達やら、お仕事やらと行きますかー」
冒険者は、町から町へと渡り歩く。時に樹海に入ったり、時に山を越えたりするけど、基本的に目的地を設定して、そこでお金や食料、薬品なんかを準備してから出発するのだ。
当たり前だけど、お金がないと旅が出来ない。一番簡単に言えば、食料が買えないからだ。
なのに、この女が来てから、買う保存食の質が二ランクぐらい高くなったらしいのだ。おかげさまで、やたらとお金が必要になって、とどまっている期間も随分長くなっちゃった。
ボクはさっさと遠くへ行きたいのに、こいつのせいでとどまっている。保存食なんて、何食べても同じのはずだ。“あんな”ものより、よっぽど美味しい。なのに、なんでわざわざ高いものを買うんだろう。
「……はぁ」
ちなみに。
「……ちっ」
気難しいからよく分からないんだけど、その点だけはゴーズさんも同感だったみたい。
ちょっと嬉しかった。